高齢者を支える親族のための法律知識

【Q27】任意後見人を別の人に替えたい
                                            令和元年5月8日
                                          弁護士 亀井 美智子

 私の母は、兄を任意後見人とする任意後見契約を結びました。後見人の報酬としては、母の遺産を全て兄に相続させることとし、遺言書も作りました。しかし、その後母は、大病を患って所有していた自宅を売却せざるを得なくなり、遺産はわずかな預金以外はなくなりました。兄は急に母とは疎遠となり、母が入院しても見舞にも訪れなくなりました。母は怒って、兄には任せられない、弟の私に任意後見人になってほしいといいます。任意後見人を私に替えることはできるのでしょうか。

【A27】
 任意後見契約が発効する前(任意後見監督人が選任される前)の場合、お母さんはいつでも任意後見契約を解除することができます。ただ手続が少し面倒です。解除の通知は、公証人の認証を受けたうえで兄に送付しなければならず、また、兄の任意後見契約の終了登記も行う必要があります。解除後に新たにあなたと母の間で任意後見契約を結んでください。

【解説】
1 任意後見契約とは
 任意後見契約というのは、自分の判断能力が不十分になったときの財産管理や療養看護などに関する事務を、予め自分の信頼できる人に引き受けてもらう契約で、公正証書にする必要があり、公証人の嘱託により任意後見の登記がなされます。
 本人の判断がしっかりできるうちに、財産をどのように管理してもらいたいのか、身上監護はどのように行ってもらいたいのかを本人が自分で決めてお願いしておけるので、老いの準備といわれています。
 そしてこの契約は、本人の判断能力が不十分になり、任意後見を引き受けた人(以下「受任者」といいます)などが裁判所に請求し、裁判所が任意後見監督人を選任したときに初めて効力を生じます(任意後見契約法2条1号)。以降は判断能力が十分でない本人の代りに任意後見監督人が監督する下で、任意後見人が任意後見契約の内容に従って後見事務を行うことになります。
 ところで、任意後見契約を結んだけれども、その後の事情により任意後見人を別の人にお願いしたい場合、まずは現在の受任者との契約を解除する必要がありますが、任意後見監督人が選任される前か後かにより手続や難易度が異なってきます。

2 任意後見監督人が選任される前
 任意後見監督人が選任されておらず、任意後見契約がまだ発効していない場合なら、本人から受任者への通知により、任意後見契約を解除することができます(任意後見契約法9条1項)。
 手続きとしては、内容証明郵便の書式で作成した解除通知書に公証人の認証を受けた後、配達証明付きで、受任者に送付し、その解除通知書の謄本と配達証明書を法務局に提出して任意後見終了の登記をしてもらいます。任意後見終了の登記が必要なのは、この登記をしないと、任意後見人の代理権が消滅したことを第三者に対抗できないためです(任意後見契約法11条)。

3 任意後見監督人が選任された後
 任意後見監督人が選任され、任意後見契約が発効している場合、本人から任意後見契約を解除することは自由には行えなくなります。解除するには、「正当事由」と「裁判所の許可」が必要です(任意後見契約法9条2項)。というのは、この時点では既に本人は判断能力が十分でない状態ですから、解除を自由に認めるとかえって本人の利益を損なうおそれがあるためです。
 「正当事由」というのは、たとえば任意後見人の病気や遠方への転居のために職務遂行が事実上困難であるとか、本人との信頼関係が破綻した場合や、任意後見契約で約束したことを守ってくれない場合などが考えられます。
 しかし、この時点では解除について本人の判断能力は十分でないですし、任意後見人は任意後見監督人の監督の下に行動しているわけですから、裁判所が解除の正当事由を認めて許可するか、容易でないように思います。
 もっとも、不正行為や著しい不行跡等がある場合は、裁判所は、本人のみならず親族、任意後見監督人の請求により、任意後見人を解任することができます(任意後見契約法8条)。

4 任意後見監督人選任前の事由で選任後に解除、解任する場合
 ところで、任意後見監督人が選任された後に、任意後見人として不適任である過去の事情が見つかることもあると思います。しかし以下のとおり、判例は、任意後見監督人が選任された後では、任意後見監督人の選任前に任意後見人として相応しくない事由(例えば、本人の財産に不利益を及ぼす行為をしていた)があっても、原則として解任は認めませんので、注意が必要です。

 親族からの解任請求の判例ですが、「任意後見契約は任意後見監督人が選任されたときからその効力を生ずるものであるから,原則として,任意後見人解任事由としての任務に適しない事由とは,任意後見監督人選任後の事由である」とし、任意後見監督人選任以前の事由を解任事由とした申立てを却下した判例があります(名古屋家裁 平成22年1月6日)。
 また、この審判の不服申立て(即時抗告)に対して、裁判所は、もし受任者に任務に適しない事由があれば、任意後見契約法4条1項3号ハ(受任者が「不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者」のときは任意後見監督人を選任しないとする規定)により、裁判所は任意後見監督人を選任できない定めになっているから、選任以前の事由は解任事由として認められない、とした決定があります(名古屋高裁 平成22年4月5日)。つまり、任意後見監督人が選任された以上、裁判所が、任意後見人には、それ以前に解任事由は存在しないと判断したことになるから、今更問題にできない、と言っているのです。

5 お尋ねのケース
 お尋ねのケースでは、お母さんはご自身で判断ができる状態のようですので、まだ任意後見監督人が選任されていない場合と思います。そうであれば、2項の手続きにより、兄との任意後見契約を解除して任意後見終了の登記を行ってください。
 いずれにしても、前記のとおり、報酬の件で急に母と疎遠になった程度の事由だと、任意後見監督人の選任後はなかなか解任も解除も認められません。ですから、解除通知は、母の判断能力に問題がなく、兄が任意後見監督人選任の請求を行う前に、すみやかに行う必要があると考えます。
 なお、兄に相続させる旨の母の遺言書も、新しい遺言書を作成すれば、後で作成した遺言書が優先するため(民法1023条1項)、容易に変更が可能です。
                                                  以上

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