高齢者を支える親族のための法律知識

【Q36】親族を父の後見人にしたい
                                           令和6年9月12日
                                          弁護士 亀井 美智子

 父の認知症が進んで一人暮らしを続けることはできなくなりましたので、兄弟と相談の上、父に成年後見人を選任してもらうことにしました。とりあえず、実家に近い私を後見人候補者として申立てを行いたいのですが、家裁は希望どおり私を選任してくれるでしょうか。全く知らない専門家が選任されたりしないか不安です。

【A36】
 必ず候補者の親族が選任される、とまではいえませんが、実際に、親族を後見人候補者として後見を申立てたケースでは、ほとんど候補者の親族が選任されています。

【解説】
1 任意後見契約の選択肢について
 父の認知症の症状が軽く、契約内容を理解し判断できる状態なら、貴殿を任意後見受任者とした任意後見契約を締結すれば、今後父の判断能力が低下したときは家裁に申立てて任意後見監督人が選任されると、確実に貴殿を任意後見人として契約に定められた財産管理等をスタートさせることができます。

 しかし、お尋ねのケースでは、父の認知症は進んでいるということですから、父は任意後見契約の内容について理解ができず、契約の締結は難しいかも知れません。その場合は、法定後見の申立てを行うことになります。

2 親族後見人選任割合(統計データ)
 令和5年1月から12月の最高裁の統計(WEBに公表されています。)によると、後見・保佐・補助(以下「後見等」といいます。)が開始された約38,800件のうち、後見人・保佐人・補助人が親族の割合は約18.1%です(他は司法書士、弁護士、社会福祉士などです。)。親族が意外に少ないように思いますが、そもそも後見等申立てのうち、親族を候補者として申立てられているケースが約22.0%にと少ないのです。よって、親族を後見人候補者として後見を申立てるケースでは、ほとんどその親族が選任されているといえます。

3 候補者について検討される点
 家裁は、候補とされた親族が、申立ての動機となった本人のニーズや課題(預貯金の管理、不動産の処分、遺産分割、訴訟、施設入所など)に対応できる人か、を検討しますが、前提として後見人として通常の事務作業能力(財産目録や後見等事務報告書を作成して定期的に家裁に報告する能力)は必要ですから、それも確認します。
 検討の資料としては、後見等の申立書に添付される「後見人等候補者事情説明書」の中で、候補者の経歴、職業、収入、資産や、今後の療養看護や財産管理の方針などが明らかにされますのでそれを参考とし、必要に応じ、これまでの本人との関係などについて、参与員の聴取や調査官の調査を行います。
 それら検討の過程で、特別の事情により、候補者の親族の選任が適切でないと判断される場合もあります。たとえば候補者の親族と他の親族間に対立がある場合、虐待や不仲など本人が候補者の選任を望んでいない場合、候補者が本人の財産を使う目的で申し立てている場合、候補者の親族が健康問題をかかえていたり、多忙あるいは遠方に居住していて、適正な後見事務が行うことができないと判断される場合などです。

4 専門職の選任が必要な場合
 また、専門職の選任が適切と思われる場合もあります。たとえば、遺産分割協議が目的で後見等申立てをしたが、候補者の親族が相続人の一人である場合、借地の処分、訴訟など専門職を要するような法律問題をかかえている場合です。
 ただし、候補者の適格性が十分でない場合でも、専門職と一緒に親族を後見人に選任するか、専門職の後見監督人をつける場合もあります。たとえば、多額の流動資産がある場合や、多数の不動産の賃貸管理など財産管理が難しい場合です。
 もっとも、遺産分割協議が成立したり、訴訟について和解が成立した等法律問題が解決した場合や、多額の預貯金を後見制度支援信託にしたとか、申立て当初の課題が解決して親族後見人が管理できるようになれば、短期間で専門職が辞任し、親族後見人が単独で後見事務を行うようになる場合もあります。
                                                   以上

本稿の見解を述べた部分は執筆者の個人的見解です。また、一般的な情報をQ&A形式で分かりやすく
 お伝えする目的で詳細は省略しておりますので、個別具体的事案については弁護士にご相談ください。

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