高齢者を支える親族のための法律知識

【Q38】介護施設で亡くなった父の死因を知りたい
                                           令和8年4月15日
                                          弁護士 亀井 美智子

 父は85歳の高齢で介護施設で生活していましたが、健康診断でも特に悪いところはなく、亡くなる前日に施設を訪ねたときも、笑顔で迎えてくれ元気そうでした。ところが、その翌日、突然父が亡くなったと聞かされました。原因は夕食を喉につまらせたことによる窒息死だったとのことでした。しかし、食事は介助を受けて皆さんと一緒に食堂でしていますし、夕食のときは施設に看護師の方もいる時間帯です。救急車もすぐに呼んで病院に運ばれたと聞いています。家族として父が亡くなった本当の原因を知りたいのです。調べる方法を教えてください。

【A38】
 個人情報保護法により開示請求できるのは生存する個人に関する情報ですが、亡父の死因は遺族である子にとっての個人情報でもあるので、原則として開示請求ができます。死亡原因に関する資料としては、施設の保有する介護記録、施設が自治体に報告した介護事故報告書、救急病院の医療情報、救急隊の救急活動記録が考えられます。

【解説】
第1 死者の個人情報について開示請求できるか。
 父の死因は、死者である父の個人情報ですが、個人情報保護法は、「生存する個人に関する情報」を対象としており(同法2条)、死者に関する情報は原則として対象外です。そのため、遺族が父の死因に関する情報について、施設や行政機関に情報開示を請求できるか(同法33条、76条)、問題となります。

 しかし、次のとおり、判例は死者の個人情報が同時に遺族等生存する個人にとっての個人情報でもある場合は開示を認めています。
 最判平成31年3月18日は、亡母の預金を相続した相続人が、その銀行に対し、母の印鑑届出書の開示を求めたのに対し、最高裁は、相続財産についての情報が被相続人の個人情報であるとしても、そのことから直ちに当該情報が当該相続財産を取得した相続人の個人情報であるとはいえないとし、印鑑届出書の銀行印の印影は、その相続人と銀行との取引に関するものではないので、相続人の個人に関する情報とはいえないとし、相続人の開示請求を認めませんでした。つまり裏を返せば、死者の個人情報であっても、相続人の個人情報でもある場合は、開示請求できるということになります。
 そのような考え方に立って、東京地判令和6年11月14日では、拘置所の在監中に死亡した人の遺族が、カルテを開示請求したケースで、損害賠償請求権又は慰謝料請求権の存否、及び内容に密接な関連を有する情報として、請求した遺族自身の個人情報であるともいえるとし、名古屋矯正管区長の全部不開示決定を取消しています。

 厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日通知)においても、遺族から診療経過、診療情報や介護関係の諸記録について照会が行われた場合は、本人の生前の意思、名誉等を十分に尊重しつつ、遺族に対して診療情報・介護関係の記録の提供を行う、としています。
 また厚生労働省が作成した「医療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)でも、医師等は「患者が死亡した際には遅滞なく、遺族に対して、死亡に至るまでの診療経過、死亡原因等についての診療情報を提供しなければならない。」と定めています。もっとも、開示を求め得る者の範囲は、患者の配偶者、子、父母及びこれらの者の法定代理人等に限定し、患者本人の生前の意思、名誉等を十分に尊重することが必要、としています。

 そこで、死因についての医療情報等に関する遺族の開示請求は、遺族自身の個人情報として、原則として開示が認められると考えられます。

第2 次に、ご質問の父の死因を調べる方法ですが、以下のような情報開示を求めることが考えられます。
1 早期に介護施設の死因に関する説明を十分に聞く。
 まずは事故のあった介護施設に、死亡した経緯や、事故前後の対応、死亡原因に関する施設の考えについて説明を聞きます。記憶が鮮明なうちに現場に立ち会った介護職員の話を聞くことは重要です。
 また資料として、施設から市区町村に提出した事故報告書(次項に詳述)や、介護日誌(バイタル、嚥下、食事介助の状況等)など死亡原因に関係する介護記録の資料も求めます。事故現場が録画されていた場合でも、早期に削除や上書きされてしまうこともあるので、ご注意ください。
 介護事故報告書について、施設から全部または一部の交付を拒まれたときは、市区町村の介護保険担当課に個人情報の開示請求をして入手します。

2 介護事故報告書について
 重大な介護事故は、介護施設から自治体への報告が義務付けられています。たとえば特養の例でいうと、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)、第35条において、「入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供により事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。」(同条2項)、「事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない。」(同条3項)とされています。
 また、令和6年11月29日、厚生労働省老健局が、各自治体の介護保険担当課に通知した「介護保険施設等における事故の報告様式等について」によれば、死亡事故や、医師の診断を受けて治療が必要となった事故は全て報告対象としており、報告期限は事故発生後遅くとも5日以内とされ、電子化を踏まえて事故報告書の書式の統一を図っています。書式によれば、事故の発生日時・場所、発生時の状況・対応、家族等への報告、事故の原因分析、再発防止策などの報告が求められています。

3 救急病院のカルテ等の入手
 前記のとおり、配偶者、子など近しい遺族であれば、原則として死亡に至るまでの診療経過、死亡原因について医師から説明を受け、診療情報の提供を受けることができます。
診療情報としては、死因が記載された医師の死亡診断書・死体検案書、医師のカルテ、エックス線等の画像データ、看護記録などが考えられます。

4 救急活動記録の入手
 遺族は、申請手続を行うことにより、原則として救急活動記録票の写しを入手可能です。救急活動記録により、救急隊が到着して患者を引き受けたときの状態や医師の指示、行った救命処置など病院に引継ぐまで時間をおって詳細に知ることができます。

第3 上記のような資料の請求に対し、死者の個人情報であるとして開示を拒まれたり、介護施設、救急隊、救急病院の過失が疑われる場合もあると思います。そのような場合は入手できた資料を持参して弁護士に相談してみてください。
                                                   以上


 【本稿の見解を述べた部分は執筆者の個人的見解です。また、一般的な情報をQ&A形式で分かりやすく
  お伝えする目的で詳細は省略しておりますので、個別具体的事案については弁護士にご相談ください。】

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