高齢者を支える親族のための法律知識

【Q37】後見人を交代したい
                                           令和7年12月1日
                                          弁護士 亀井 美智子

 私は、数年前から母の後見人をしてきましたが、転勤で家族と共に遠方へ引っ越さなければならなくなりました。現在母は自宅で在宅介護サービスを受けながら暮らしておりますが、遠方からでは母の見守りや病気のときの対応ができなくなってしまいます。そこで、後見人の仕事をどなたかに交代したいのですが、近くに住む親族はおらず困っています。どうすればよいでしょうか。

【A37】
 後見人を交代するには、家庭裁判所に「後見人辞任許可の申立て」と、「後見人選任の申立て」を同時に行うことになります。
 あなたの方で後見人に推薦する人がいないときは、候補者なしで申立てをすれば、裁判所が登録されているリストの中から適切な方を選んで選任してくれます。

【解説】
1 後見人の交代とは
 後見人の交代は、今の後見人の辞任と、新しい後見人の選任を同時に行うということだと思います。
 まず、後見人の辞任については、民法は、「正当な事由があるときは」、家庭裁判所の許可を得て辞任することができると定めています(民法844条)。逆に言えば、正当な事由がなければ、辞任は認められないということになります。「正当な事由がある」とはどういう場合かは、2項で解説します。
 そして、辞任すると新たに後見人を選任する必要があるときは、後見人は新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法845条)。この規定は、後見人が欠けることを最も先に知りうる者に家庭裁判所に対する選任請求義務を課すことによって、被後見人の利益保護に遺漏がないようにしたものとされています。

2 辞任の正当な事由とは
 「正当な事由」とは、後見人側に、今後の後見事務の遂行に支障が生じるようなやむをえない事情がある場合で、その有無は具体的事情を踏まえた家庭裁判所の判断に委ねられます。裁判所は、辞任の必要性が実際に認められるか、及び辞任によって本人の利益が害されるおそれがないか、という観点から判断することになります。
 たとえば、後見人が遠隔地へ転居したり(お尋ねのケース)、本人の方が遠方の施設に入所したりして、後見事務の継続が難しくなる場合、そのほか後見人が高齢、病気によって後見人の事務ができなくなった場合が考えられます。
 また、後見は基本的には後見人と被後見人間の相互の信頼関係を基礎としている面があるため、後見人と、本人や本人と極めて近しい親族との間に回復し難い不和が生じている場合も、辞任の理由になりえます。
 そのほか、たとえば専門知識が必要な複雑な遺産分割は終了したので、専門職が後見人を親族等に交代することを希望する場合や、親族後見人と信託後見人が選任されていたが、信託手続きが終了したので信託後見人が辞任し、親族後見人のみとなる場合があります。

3 新しい後見人について
 できれば、本人の権利擁護のためには、今の後見人の後見事務を引き継いで、本人の状況や意向に沿った後見事務を続けられる候補者が見つけられれば、それが最も望ましいです。しかし、候補者が見つからない場合は、裁判所に選任を一任する形でも申立てができます。
 ただし、候補者が見つかるまでは本人保護の観点から辞任が困難な場合もあるので、辞任許可等の申立て前に早めに家庭裁判所に相談することが望ましいと考えます。
                                                   以上


 【本稿の見解を述べた部分は執筆者の個人的見解です。また、一般的な情報をQ&A形式で分かりやすく
  お伝えする目的で詳細は省略しておりますので、個別具体的事案については弁護士にご相談ください。】

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