高齢者を支える親族のための法律知識

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        高齢者を支える親族のための法律知識

【Q30】後見制度支援信託とは
                                            令和2年8月1日
                                          弁護士 亀井 美智子

 母を施設に入所させるため、母の後見開始申立てをしましたが、裁判所から、今後専門職後見人の調査を経て、預貯金を信託にするか、そうでなければ後見監督人を付けることになるだろうと言われました。私はこれまでも母から信頼されて母の財産を管理してきました。私が母のお金を不正に使ったりすることは絶対にありませんので、どちらも必要ありませんし、必要もない調査で費用は払いたくありません。なんとかならないのでしょうか。

【A30】
 後見制度支援信託は、もともと後見人の不正防止のための制度ですが、東京家庭裁判所では、後見人候補者の適格性とは関係なく、本人に500万円以上の流動資産がある場合については、後見制度支援信託ないし後見制度支援預貯金(以下合わせて「信託等」といいます)を検討することとし、専門職後見人の信託等利用の適否に関する調査報告を前提として、信託等が適当でない場合は、後見監督人が選任されるのが原則です。法律上の根拠としては、民法863条2項に基づいて、裁判所が職権で後見事務について必要な処分を命じるものです。

【解説】
1 後見制度支援信託とは
 後見制度支援信託というのは、本人の財産のうち、 日常的な支払いをするのに必要な金銭に限って預貯金等として後見人が管理し、それ以外の通常使用しない金銭は信託銀行等に信託する仕組みです。信託財産は、元本が保証され、預金保険制度の保護対象にもなります。後見事件が対象で、保佐、補助、任意後見は対象外です。
 後見制度支援信託にすると、後見人が信託財産を払い戻すには予め裁判所が発行する指示書が必要になります。もっとも月々の収支が赤字になることが予想される場合に、信託銀行から毎月一定額の支払を受ける定期交付金を設定することもできます。
 信託銀行等に信託することに代えて,より身近な金融機関である銀行、信用金庫等に金銭を預け入れる仕組みもあります(後見制度支援預貯金)。

2 信託等利用の適否に関する調査について
 裁判所は、後見人候補者の了解を得た上で、信託等の利用を検討することが相当であると判断した事件について、専門職後見人に調査を求めますが、それは詳細に調査すると次のような事情が判明して信託等が適当でない場合があるからです。
 もっとも、下記の事情があっても、他の事情により信託等が不適とはいえない場合や、その事情が解決すれば、信託等の利用が適当な場合もあると考えられます。

① 本人が解決に専門的知見が必要な問題をかかえている場合
 本人が、遺産分割、交通事故による損害賠償請求、扶養請求、訴訟などの問題をかかえており、対応に専門的知見が必要な場合。
 本人の財産を売却換金して資金を作る必要があるが(たとえば借入金の返済)、その財産の処分に専門的知見が必要な場合(借地、担保付マンションなど)
② 信託等のできない管理が複雑な多額の財産をもっている場合
 多数の賃貸不動産がある、株式・投資信託等多額の金融資産を有している場合など。
③ 近々大きなお金を使う予定があり、収支予定を立てることが困難な場合
 介護施設への入所、転所が必要。
 病状が安定しない。
 事業上の多額の借金があるなど。 
④ 特定の預貯金を相続させる内容の遺言書がある場合
 遺言書による遺贈の意思が信託行為により撤回とみなされることがあります(民法1023条2項)。また、後見人が預貯金を信託銀行の口座に移すことにより、遺言書において、ある人に相続させることにしていた特定の銀行等の預貯金が無くなり、事実上取り消される効果を生じてしまう場合が考えられます。
⑤ 財産管理や身上監護をめぐって親族間に紛争がある場合
⑥ 後見人候補者について下記のような問題があり、後見監督人の選任が望ましい場合
 本人に対し身体的・経済的虐待を行った疑いがあること。
過去に本人との間に紛争があったこと。
 今後共同相続人として本人と遺産分割協議を行う必要があるなど利益相反関係が予想されること。
 本人の財産に依存して生活していること。
 本人に対し未精算の多額の借金、立替金債務があるなど。

3 手続きの流れ
 本人に多額の預貯金がある場合について、後見申立て後の手続きの流れについてご説明します。
① 後見開始の審判
 専門職後見人と親族後見人が、権限分掌方式(たとえば専門職後見人は財産管理と身上監護、親族後見人は身上監護)で選任されます。
② 裁判所が信託等利用の適否を調査するよう専門職後見人に指示します。
③ 専門職後見人は、まず本人の財産状況を調査して、財産目録、収支予定等を裁判所に報告します。
④ さらに専門職後見人は、調査と検討結果に基づいて、信託等利用の適否、信託等が適当な場合は信託財産額(手
 許金額)、定期交付金の要否・金額について裁判所に報告書を提出します。
⑤ ④の報告書を検討の上、裁判所が信託等利用に適すると判断すれば専門職後見人に信託契約等の指示書が交付さ
 れます。信託等に適さないと判断すれば後見監督人が選任されると思われます。
⑥ 専門職後見人が信託契約を締結し、あるいは支援預貯金口座の開設を行なって、振込送金を行います。
⑦ 裁判所の許可を得て専門職後見人が辞任します。
⑧ 専門職後見人は、親族後見人に財産管理の引継ぎを行い、裁判所に引継書を提出します。
 なお、専門職後見人、後見監督人の報酬に関しては、裁判所が決定した金額を、本人の財産から支弁することになります。

4 信託等の課題
 信託等に関しては、本人は財産があるのに、ほとんどが信託されてしまい、自由に使えなくなる、信託後は後見人が財産の利用を躊躇し、本人のために使おうとしなくなる、という問題が指摘されています。
 成年後見制度利用促進専門家会議も、「成年後見制度利用促進基本計画に係る中間検証報告書」(令和2年3月17日)において、「後見制度支援信託又は後見制度支援預貯金の利用により、本人の財産の保全という側面のみが重視されることのないよう、本人の財産を本人のために積極的に活用する考え方について、後見人等の理解を広げていくことが必要である。」と提言しています。
                                                  以上

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