高齢者を支える親族のための法律知識
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【Q35】親族が後見申立てを行う場合の費用の負担
令和6年6月1日
弁護士 亀井 美智子私の母は、実家で一人暮らしをしていますが、最近認知症が進んで頻繁に見守りが必要となり、遠方で暮らす私では対応できなくなってきました。そこで、母に後見人を選任してもらうため、私から弁護士さんに頼んで、家裁に後見開始の申立てをしてもらいました。弁護士費用や実費は、一旦全て私が立て替え、後日後見人に選任された方に、母の預金から精算してもらおうと思いますが、できますか?
【A35】
実費の内、後見開始申立て(家事審判)の手続費用は、家事事件手続法28条1項により、申立人である貴殿の負担となるのが原則ですが、後見申立てにより直接に利益を受けるのは母なので、同条2項3号により、手続費用のうち、申立手数料、後見登記手数料、送達・送付費用、鑑定費用については、後見開始の審判書で、被後見人(母)の負担とされるのが一般です。
弁護士費用や診断書の作成費用は、手続費用には含まれず、弁護士や医師に依頼した貴殿の負担となるのが原則です。
【解説】
1 申立ての手続費用の負担
後見開始の申立てに関する手続費用の負担については、家事事件手続法28条1項が、「手続費用は、各自の負担とする。」と規定しており、申立ての手続費用は、その申立てをした人が負担するものと定められています。したがって、後見開始の申立ての手続費用は、申立人である貴殿の負担となるのが原則です。
しかし、家事事件の申立ては必ずしも申立人自らの利益のためにされるとは限らないため、申立人の負担とすると、かえって公平に反するような場合もあります。そこで、そのような場合の例外として同条2項は、「裁判所は、事情により、前項の規定によれば当事者及び利害関係参加人がそれぞれ負担すべき手続費用の全部又は一部を、その負担すべき者以外の者であって次に掲げるものに負担させることができる。」とし、1号から3号までを列挙しています。
後見開始申立ての手続費用については、そのうち3号の、その裁判により直接に利益を受ける被後見人(母)について、審判を受ける成年後見人に準ずる者として、手続費用の一部を負担させるのが一般です。
その場合、後見開始決定の審判書に「手続費用のうち、申立手数料、後見登記手数料、送達・送付費用及び鑑定費用は本人の負担とし、その余は申立人の負担とする。」などと書かれます。
よって、審判書で本人(母)の負担とされた上記手続費用については、後日後見人に費用の償還を求めることができます。
2 申立ての弁護士費用等について
家事事件の手続費用の範囲と額については、民事訴訟費用等に関する法律2条に列挙されていますが、弁護士費用や診断書作成費用は含まれていないため、これらは手続費用ではありません。弁護士や医師に依頼したのは貴殿ですから貴殿の負担となるのが原則です。
ただし、弁護士費用について、例えば申立人が遠方に居住しており、多忙で自分では手続きができず、また遺産分割協議を進めるためなど申立てが申立人の利益のためにしたものではなく、弁護士への依頼内容や金額が過大でない場合、被後見人に十分な資力があれば、事務管理の法理を類推して有益費用として後見人が償還してもよいのでは、という考え方もあるようですので、そのような事情があれば、一度後見人と相談してみてください。
以上【本稿の見解を述べた部分は執筆者の個人的見解です。また、一般的な情報をQ&A形式で分かりやすく
お伝えする目的で詳細は省略しておりますので、個別具体的事案については弁護士にご相談ください。】
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