高齢者を支える親族のための法律知識

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        高齢者を支える親族のための法律知識

  • 【Q32】代表の父が認知症になったら会社はどうすれば…
                                               令和3年10月5日
                                              弁護士 亀井 美智子

     父が経営する会社は、父が全株所有しており、会社の業務は父がほとんど一切を取り仕切っています。父も高齢となり、最近急に物忘れが酷くなりました。今後、もし父が認知症になってしまったら、会社の従業員、取引先との関係や、銀行への返済がどうなるのか不安です。

    【A32】
     父が認知症により会社経営が難しくなった場合、会社業務を後継者に承継させる方法としては、まず家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらいます。そして、成年後見人が父の法定代理人として株主総会における議決権を行使して、後継者を取締役に選任する方法が考えられます。なお、成年後見が開始されても、改めて父を取締役に選任するなどの選択肢もあります。

    【解説】
    1 父の取締役の資格
     父について成年後見が開始されると、父は取締役退任となり、会社を経営できなくなります。というのは、会社と取締役との関係は、委任契約関係です(会社法330条)。取締役が選任後に後見開始の審判を受けると、委任は終了するからです(民法653条3号)。
     もっとも後見開始の審判を受けても、株主総会で成年被後見人を、取締役に選任することはできます。令和元年の会社法改正により、取締役の欠格事由から「成年被後見人」が削除されました。成年被後見人が取締役に選任されると、成年後見人が、成年被後見人の同意を得たうえで、会社に対し、成年被後見人に代わって就任の承諾をすることになります(会社法331条の2、1項)。
     ただし、会社は、成年被後見人であることを承知の上で取締役にしたわけですから、取引安全の観点から、成年被後見人が取締役として行った契約や取引等の行為について、行為能力の制限によっては取り消すことができなくなります(同条、4項)。

    2 成年後見人ができること。
     ところで、成年後見人が法定代理人として取締役の業務を行えばよいではないかと思われるかも知れませんが、成年後見人は取締役の業務を行うことはできないと解されています。成年後見人が代理できるのは、成年被後見人の財産の管理と、その財産に関する法律行為であり(民法859条1項)、会社の業務執行は、含まれていないからです。

     もっとも、成年後見人は株主権を含む父が所有する全ての財産管理を行いますから、後見人が大株主である成年被後見人の法定代理人として、株主総会での議決権を行使する場合もあります。そこで、このケースでは成年後見人が、株主総会での議決権を行使し、父の意思を推測して後継者と思われる人を取締役に選任することが考えられます。
      
    3 仮取締役の選任
     もし後見開始により被後見人が退任になると、会社の取締役(代表取締役)が誰もいなくなる場合、または定款に定める取締役(代表取締役)の人数が足りなくなる場合は、裁判所が必要と認めれば、一時的に取締役(代表取締役)の職務を行う者を選任する制度があります(「仮取締役」「一時取締役」と言われています。会社法346条2項、351条2項)。仮取締役の権限は、本来の取締役と同じです。
     後継者がすぐみつかれば、上記のとおり、成年後見人が代理人として父の議決権を行使して株主総会でその人を取締役に選任すればよいのですが、後継者探しに時間がかかり、その間、直ちに処理しなければならない重要な会社の業務のある場合も考えられます。
     そのような場合は、利害関係人から裁判所に、仮取締役の選任を申立てますが、株主は利害関係人に含まれるので、成年後見人は株主である成年被後見人を代理して仮取締役の選任を申立てることができます。
     ただし、申立ての際に納付を求められる予納金の金額は高額になることも少なくないので注意が必要です。仮取締役に選任されるのは原則弁護士で、予納金は、次期取締役が選任されるまでの間にその人に支払われる月額報酬や費用の支払を担保し得る額を想定しているので、100万円以上になることも珍しくありません。

    4 以上のとおり、成年後見人が選任された後も手続きは容易でないので、会社の経営を円滑に継続させるためには、父がお元気なうちに、その意思を確認するなどして会社の後継者を決め、できればその方に取締役に就任してもらっておくことが望ましいと考えます。
                                                       以上


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