高齢者を支える親族のための法律知識

学べるコラム

        高齢者を支える親族のための法律知識

  • 【Q29】前払金を預けて大丈夫か

    令和2年7月1日
                                             弁護士 亀井 美智子

     父は訪問介護を受けながら一人暮らしをしてきましたが、この度私の家の近くに良さそうな老人ホームが見つかり、入居の契約をしようと思います。前払金ゼロで月額25万円と、前払金300万円で月額20万円の2つのプランがあり、5年以上居るなら、前払金を払った方が以降の家賃が割安になります。父もこのホームを気に入ってくれたので前払金のプランで契約しようと思いますが、最近介護施設の倒産が相次いでいると聞きます。万一このホームが倒産した場合を考えると、前払金のプランは避けた方がいいのでしょうか。

    【A29】
     老人福祉法(以下、条文はいずれも同法です。)は、有料老人ホームは、前払金の返還債務を負う場合に備えて保全措置を講じなければならないと定めています(29条7項)。具体的に厚生労働大臣が定める保全措置としては、銀行等の連帯保証、一定の格付が付与されている親会社の保証、高齢者の福祉増進目的で設立された一般社団法人等との保全の契約で都道府県知事が認めるもの等があります。施設の開設時期や自治体の規制によって規制内容は一定ではないので、まずは入居契約書や重要事項説明書で、前払金がどのような場合にいくら返還されるのか、返還について保全措置の有無・方法を確認してください。また、保全措置があっても保証される場合の条件や、保証限度額のある場合もありますから、注意しましょう。

    【解説】
    1 前払金とは
     前払金(入居一時金)とは、有料老人ホームの入居時に一括して支払うお金です。
     以前は、入居時に数百万円に及ぶ高額な一時金を支払い、入居後、施設のサービスが期待していた内容と異なっていたり、入居者が入院や要介護度の悪化により、早期に退去せざるを得なくなった場合に、一時金の返還を巡って入居者や相続人とトラブルになることがありました。
     そこで、前払金に関して、以下に述べるように様々な規制が定められました。
     まず、前払金は、家賃、介護等日常生活上必要な便宜の供与の対価としてでなければ受領できなくなりました(29条6項、Q16ご参照)。

    2 前払金の算定、返還に関する規制について
     また、前払金については、その算定の基礎を書面で明示すること、及び前払金の返還債務を負うこととなる場合に備えて保全措置を講じることが義務づけられました(29条7項)。

     そして、想定よりも早期に退去する場合の前払金の返還額については、①入居後3か月以内に、解除したり、死亡した場合は、前払金の額から、(家賃等の月額)÷30×(入居日から契約終了日までの日数)を差し引いた金額を、②入居して3か月を超えた後、想定居住期間内に、解除したり死亡した場合は、契約終了日から想定居住期間までの日割計算により算出した家賃等の金額を返還する契約を締結しなければならないと定められました(29条8項、老人福祉法施行規則21条1項、2項)。

     さらに、前払金の算定根拠や、返金額については、厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(平成30年4月2日老発0402第1号)に詳細に規定され、各自治体も同様の定めを置いています。
     たとえば、終身にわたる契約の、前払金の算定根拠について、上記厚労省の指針11⑵三は、(1ヶ月分の家賃又はサービス費用)×(想定居住期間(月数))+(想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて受領する額)、としています。
     なお、「想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて受領する額」(初期消却)を認めるか、認めないかについては自治体でばらつきがあり、例えば「東京都有料老人ホーム設置運営指導指針」11⑷エは、前払金の全部又は一部を返還対象としないことは、適切でない、として初期償却を認めない方針を打ち出しています。

    3 前払金返還の保全措置について
     先ほど述べた前払金の具体的な保全措置としては、「厚生労働大臣が定める有料老人ホームの設置者等が講ずべき措置」(平成18年3月31日厚生労働省告示第266号)により定められており、銀行、信託会社、信用金庫等の連帯保証委託契約、保険事業者、一定の格付けを有する親会社との保証保険契約、信託会社等との信託契約、高齢者の福祉増進目的で設立された一般社団法人等との保全のための契約などとされています。
     29条7項の保全措置義務は、この改正法が施行された平成18年4月1日以降に開設した施設が対象ですが、令和3年4月からは全施設が対象となります。
     どのような保全措置が実際に行われているかについて、厚生労働省が発表した令和元年6月30日時点の調査結果によれば、銀行等の連帯保証契約が約4割と最も多く、次いで信託会社等による信託契約、全国有料老人ホーム協会による入居者生活保証制度が利用されています。
     この内、全国有料老人ホーム協会による入居者生活保証制度の概要は同協会のHPで公表されていますが、施設が倒産した場合について、「ホームの入居者全てが退去せざるを得なくなり、入居契約を解除した場合に、損害賠償の予定額として予め定めている金額(保証金額:1人あたり200万円~500万円)をお支払いいたします。」とされています。
     なお、上記の全員退去の要件については、前払金等の債務を除いて別会社に事業譲渡された場合に適用外になるため、要件の緩和が検討されているようです。

    4 入居契約のときは
     ところで、前記令和元年6月時点の厚生労働省の調査によれば、都道府県知事に開設届出(29条1項)さえ行ってない未届有料老人ホームは、減少はしているものの4.5%存在し、保全措置義務に違反している施設も2%程度あります。
     そこで、まずは入居しようとする施設が、届出施設であることを、自治体HPの有料老人ホーム一覧表で確認してください。一覧表により他の施設の概要や家賃等月額利用料を比較することもできます(29条9項、10項)。各施設の前払金や保全措置についても一覧表や重要事項説明書を通じて知ることができます。
     自治体HPや、施設見学の際に、前払金に関して調べるポイントとしては、金額だけでなく、前払金の算定根拠、初期償却の有無、償却期間、償却前の退去時の返還額、償却期間経過後の費用負担、返還についての保全措置の有無・方法、保証先の保証条件、保証限度額などの保証範囲です。
     入居契約を締結しようとするときは、できれば事前に入居契約書と重要事項説明書を見せてもらって、前払金に関して上記の点を確認し、契約に際しては、わからない点は納得できるまで施設から説明を受けてください。                                                   以上

                                                         プライバシーポリシー
     本サイトに掲載されている写真・情報等の無断転載は一切禁止します。 Copyright (C) 2019 亀井法律事務所 All Rights Reserved.