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     高齢者を支える親族のための法律知識
       
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                                         平成24年6月1日

                                      弁護士  亀 井 美 智 子

【Q1 施設との契約 ー 字が書けない場合
  老人ホームに入所するときの契約を、父は字がかけないので、私が代わりにサインしても大丈夫でしょうか?

 

【A1】
   本人に意思能力がないのに、親族が本人の名前で契約した場合、入所契約は、原則として無効となります。

 

【解説】

第1 本人に意思能力がある場合

父に意思能力はあるが、手が震えるなどして字がかけないので、親族が本人の名前でサインする場合については、親族が本人の手足としてサインを代行するに過ぎません。そのため、本人と施設との間で入所契約は有効に成立します。

因みに「意思能力」というのは、自己の法律行為によって自己の権利義務に変動が生じることを判断できる精神状態にあることをいいます。具体的にいうと、この場合は、入所契約により受けるサービス内容や利用料金の支払について理解し判断する能力があることです。意思能力の有無は、契約時点の本人の状態で判断します。

 

第2 親族が親族の名前で契約する場合

この場合は、施設がサービスを父に提供し、親族が施設に利用料金の支払いをする契約として有効に成立します。

もっとも、父が、単にサービスの提供を受ける立場に止まらず、サービスの提供を受ける「権利」を取得するためには、父から「受益の意思表示」がなされることが必要です。というのは、契約の当事者の一方(施設)が第三者(父)に直接債務を負担することを相手方(親族)に約する契約を「第三者のためにする契約」といいます。そして、このような契約の場合は、第三者(父)の権利は、施設に対して契約の利益を享受する意思表示(受益の意思表示)をしたときに初めて発生すると定められているからです(民法537条2項)。

受益の意思表示を行うためにも一定の能力が必要になりますが、黙示の意思表示(たとえば父が施設にサービスの提供を要求するなど)でもよいと解されています。

受益の意思表示を行う能力がない場合でも、契約を締結した親族が、施設にサービスの提供を要求する権利のある契約としては成立しているので、特に不都合は生じないと考えます。

ただ、父に意思能力がない場合に、親族が負担した施設の利用料金を、父の資産から清算してもらうためには、やはり成年後見人の選任が必要となります。

 

第3 本人に意思能力がない場合

  1  親族が本人の名前で契約する場合

本人の意思とは関係がなく締結される契約なので無効となります。施設と契約するためには、成年後見人の選任が必要です。 

 

  親族が本人の代理人として契約した場合も、親族は本人から入所契約を結ぶ代理権を与えられていないので、無権代理行為となり、やはり無効になります(民法113条)。ただし、後日成年後見人により追認がなされれば、施設との契約は締結時に遡って有効になります(民法116条)。

 

  2 事務管理

  急遽人気のある老人ホームから空きがでたと連絡が入って、すぐにでも契約したい場合、成年後見人の選任を待っていられないこともあると思います。

そのような場合、親族が事務管理者として本人の名前で、施設と入所契約を締結することができ ます。事務管理とは、義務なく他人のために事務を管理することです(民法697条)。

ただし、本人には意思能力がないわけですから、あくまで成年後見人が選任されるまでの間、本人のために行った一時的な事務として有効と考えられます。したがって、その後、すみやかに成年後見人に追認してもらいましょう。

以上

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