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平成31年2月12日

弁護士 亀井 美智子


【Q26】お墓の権利を承継したい

父は母の死後、高齢で再婚し、昨年暮れに亡くなりました。父が管理していた家の墓は長男である私が管理していくつもりだったのですが、後妻が、生前父から墓のことを頼まれたと言って、父の死後すぐにお寺との墓地の永代使用契約を承継してしまいました。父と生活したのは数年に過ぎないのに後妻に家の墓の管理を任せるなど到底納得できません。墓の権利を私が承継する方法はないでしょうか。

 

【A26】

 お墓の権利は祭祀承継者が承継しますが、祭祀承継者は、被相続人の指定があれば、その人になります(民法897条1項但し書)。もっとも被相続人の指定の存否に争いがある場合、家庭裁判所に祭祀承継者指定の申立を行うことができます。その際、裁判所に、祭祀承継者の指定と共に、お墓の引渡し、墓地使用承諾証など使用権者の名義変更に必要な書類の引渡しを求めることも可能です。ただし、被相続人が祭祀承継者を後妻に指定していたことが明らかになれば、裁判所は後妻を指定することになります。

 

【解説】

1 祭祀承継者とは

  祭祀承継者とは、祖先の祭祀を主宰すべき者です。祭祀財産は、相続財産ではなく、祭祀承継者が承継します。

祭祀財産とは、系譜、祭具、墳墓をいいます。系譜とは家系図、祭具とは位牌、仏壇など、墳墓とは墓石、墓地(所有権、用益権)などです。

 

2 祭祀承継者の決定方法

 祭祀承継者は、まず被相続人の指定によって定まり、それがなければ慣習に従い、慣習が明らかでなければ、裁判所が指定します(民法897条)。以下詳しく述べます。

 

  なお、祭祀承継者に指定されると辞退することはできませんが、祭祀承継者に指定されても祭祀施行義務を負うわけではなく、また祭祀承継者は、祭祀財産を自由に処分することができます。

 

(1) 被相続人の指定

被相続人の指定は、遺言書等の書面にしなくても、口頭でもかまいません。

また、黙示の意思表示でもかまいません。判例では、被相続人が家産の全てを長女に贈与した場合に、長女を祭祀承継者とする意思を具現したものとした事例(名古屋高判昭和59年4月19日)、被相続人が墓碑に建立者として二女の氏名を刻印させていた場合に、二女を祭祀承継者とする意思を明らかにしたと認めた事例(長崎家諫早出審昭和62年8月31日)、があります。

 

(2) 慣習による指定

被相続人の住所地、出身地、職業などにより、長年にわたって維持してきた地方的慣習が存在するかどうかですが、慣習の存在を認めた判例がありません。

長男が祭祀承継者となる慣習がある、と主張した事例もありますが、裁判所は、それは封建的な家族制度を廃止し個人の尊厳自由等を基礎として制定された新民法の立法趣旨に反することになるから慣習として扱うことはできない、とか、現行法施行後も旧法当時と同様に長男子において祭祀を主宰する習慣が存在するかは明らかでない、などとして慣習による指定を認めようとしません。

 

(3) 裁判所による指定

被相続人の指定も慣習もない場合は、相続開始地の家裁が審判により定めることになります。

  ところで、誰を相手方として審判を申し立てるかですが、祭祀承継者は相続人が相応しいとは限らないため、相続人のほか、祭祀財産の権利承継につき法律上の利害関係を持つ親族又はこれに準ずる者を相手方(以下「関係者」といいます)とします(東京家審昭和42年10月2日)。

 

次に、裁判所はどのような人を祭祀承継者に指定するかですが、裁判所は、苗字、長子か否か(例えば、被相続人と同居して農業に従事し跡継ぎである二女)、相続人であるか否かにかかわりなく(例えば、内縁の妻)、親族でない人(例えば、墳墓墓地を事実上管理供養している内縁の夫の孫)を指定することもあります。また、通常は一人ですが、複数を認めた事例(例えば、仏壇等祭具の承継者は現在管理している長男、墳墓の承継者は三男とする)もあります。

判断基準として、裁判所は、被相続人との身分関係、緊密な生活関係、祭具等との場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、祭祀主宰の意思や能力、利害関係人の生活状況や意見を総合して判断し、被相続人に慕情、愛情、感謝の気持ちを持ち、被相続人が生存していたら指定したであろう者を承継者と定めるのが相当であるとしています(東京高決平成18年4月19日)

 

3 関係者の協議

実際には相続人の協議で決めることが多いと思いますが、民法897条には、相続人や関係者の協議で決定する方法を定めていないので、協議で決めることができるのか疑問があり、否定した判例もあります。しかし、通説は、民法897条は、関係当事者の合意によって承継者を定めることを排除した趣旨とは解されないとして関係者の協議による決定を認めています。

そのため、祭祀承継者として指定を受けたい者が、関係者に対し、相手方の住所地を管轄する家裁に家事調停を申し立てることもできます。

 

4 被相続人の指定の存否に争いがある場合

 この場合も、被相続人の指定の存在を争って審判の申立をすることができます。

 お尋ねのケースでは、被相続人が後妻を祭祀承継者に指定したのではないと争って審判を申し立てることができます。

ただし、前述のとおり、民法897条により、被相続人の指定があれば、その人に決まるわけなので、最終的に被相続人の指定があったことが認められた場合、家裁は申立を却下するのか、それともその指定に従って家裁が承継者と定めるのか、という問題があります。

 

しかし、審判によって被相続人の指定があることが分かっても、裁判所が申立を却下してしまうと、その審判でせっかく調べたことが無駄になりますし、祭祀承継者に対して再び被相続人の指定を争う人から審判の申立がなされる可能性があり、祭祀承継者の地位が安定しません。そこで、裁判所は、被相続人の指定があると分かれば、その人を祭祀承継者と定めています。

 

お尋ねのケースで、父が墓のことを頼んだのは、例えば後妻にお寺への管理料の支払いをきちんと行うよう頼んだだけで、後妻を祭祀承継者に指定するまでの意味ではなかったかも知れません。そこで、後妻など相続人間での話し合いがうまくいかなければ、家庭裁判所に申立て、はっきりさせるのも一つの解決方法であると思います。

 

5 墳墓等の引渡命令

裁判所は、祭祀承継者指定の審判において、当事者に系譜、祭具、墳墓の引渡を命ずることができます(家事事件手続法190条2項)。

この付随処分としての引渡しには、所有権移転登記手続きや墓地使用権者の名義変更など物や権利の譲渡に必要な手続きを含むと解されます。

お尋ねのケースでは後妻がお寺の墓地使用承諾証を所持していると思われますが、家事審判により、あなたが祭祀承継者に指定されれば、同時にお墓の引渡しのほか、墓地使用承諾証など使用権者の名義変更に必要な書類の引渡しを求めることも可能です(福岡家小倉支部平成6年9月14日)

以上

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