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     高齢者を支える親族のための法律知識
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                                           平成24年11月1日
                                                  弁護士  亀井 美智子


【Q5】 
施設での虐待の疑いがあるとき
       私の母は要介護認定を受けて、ある老人ホームに入所しています。私が訪問したときの母の
     態度から、もしかしたら施設で母が虐待されているのではないかと思いました。もし虐待なら止めさ
     せたいのですが、どうすればいいですか? 公にしたら、かえって私がいないときに母がいじめられ
     ることになったらと心配ですが、大丈夫でしょうか?

【A5】
       老人ホームの従業員から虐待されている疑いがあるときは、市区町村の高齢者虐待対応窓口
     に通報してください。あなたに虐待なのか確信がなくても市区町村の方で事実確認をしてお母さん
     の身の安全を第一に必要な措置を講じてくれます。通報者が誰かについては、通報先には関係
     機関も含め守秘義務が課されるので、施設には分かりませんから、通報を理由にお母さんがいじめ
     られることはないと思います。

【解説】
1 高齢者虐待防止法とは
  正式名称は、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」といいます(以下条文数のみ引用)。この法律が高齢者を養護する者の支援も目的としているのは、高齢者を養護している家族などの精神的・肉体的・経済的負担を軽減しない限り、養護者の高齢者虐待は無くならないという認識に基づくものです。
  そして、この法律は、老人福祉施設など養介護施設の業務に従事する者による高齢者虐待の防止についても定めています。

2 通報、届出
  養介護施設の従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、誰でも市区町村に通報する義務ないし努力義務があります(21条2項、3項)。市区町村に問い合わせれば、高齢者虐待対応窓口が用意されていますので、そこで相談してください。
  上記のとおり、この法律では、虐待を受けたと「思われる」ときには通報する義務があるのですから、あなたのように虐待を受けたと確信を持てない場合でも問題ありません。通報を受けた市区町村では、まずは虐待の事実関係の確認や高齢者の安全確認を行います。そして、虐待が疑われる場合は速やかに施設等に対し後記の権限行使を行って虐待の防止と高齢者の保護を行うことになっていますので、まずは相談してください。
  その施設の従事者が虐待を受けた思われる高齢者を発見したときも同様に通報義務があります(21条1項)。通報を理由に施設が従事者を解雇など不利益な取扱いをすることは禁止されています(同条7項)。
  勿論虐待を受けている高齢者自身も、市区町村に届出をすることができます(同条4項)。

  厚生労働省が公表した平成22年度の高齢者虐待防止法に基づく対応状況の調査結果によれば、虐待と判断された件数は、養護者によるものが16,668件に対し、養介護施設従事者等によるものは96件に過ぎませんが、前年度から26%の大幅な伸びを示しています。

3 守秘義務、個人情報の保護
  虐待の通報を受けた市区町村の職員及び市区町村から報告を受けた都道府県の職員は、通報・届出をした者を特定させるものを漏らしてはならないと定められています(23条)。ですから、通報しても市区町村の職員等から施設に、あなたからの通報だと知られることはありません。
  また、通報の内容は、高齢者、養護者、相談者に関する情報を含みますし、内容自体、個人のプライバシーに関わる問題ですから、個人情報保護法の適用があります。従って、本人の同意を得た目的以外に利用できませんし(個人情報保護法16条)、本人の同意を得ずに第三者に提供することもできません(同法23 条)。

4 虐待に対する対応措置
  通報を受けた市区町村、都道府県は、老人福祉法又は介護保険法による権限を適切に行使して養介護施設の業務・事業の適正な運営を確保することになります。

  老人福祉法により、都道府県知事は、施設長等に対する報告徴収、立入検査、改善命令、事業停廃止命令、認可取消を行う権限があります(老人福祉法18条、19条、29条など)。

  また、介護保険法により、都道府県知事または市町村長は、介護保険上のサービスに関し、必要なときは、事業者等に対する報告徴収、立入検査、勧告、措置命令、指定取消を行う権限があります(介護保険法76条、76条の2、77条など)。

  前記の厚生労働省の平成22年度調査結果によれば、平成22年度に実際に施設に対して取られた措置としては、事業者等に対する報告徴収、関係者への質問、立入検査、指導、改善計画を提出をさせるなどが多いようです。

                                                   以上

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