学べるコラムQ&A

高齢者を支える親族のための法律知識
【バックナンバー】
平成24年12月1日
弁護士 亀井 美智子
【Q6】 大量の寝具購入を解除したい
私の母は70歳で一人暮らしをしています。しばらくぶりに実家を訪ねたところ、部屋いっぱい
に羽ふとんや毛布、シーツ類が4、5組積まれています。事情を尋ねると、業者が何度か家を訪ね
てきて、疲れが取れて身体によい、お客さんにも喜ばれるなどと薦められ、何度か買ってしまった
ようなのです。しかし、年金生活者の母にとって50万円程度になる高価な買い物ですし、私以外
めったに人が泊まりに来ることなどありませんから、解除したいのですが、できませんか?
【A6】
特別の事情がない限り、過量販売として、契約時から1年以内であれば、売買契約を解除する
ことができます(特定商取引法9条の2)。もし、クレジットで購入していれば、クレジット契約も解除
することができます(割賦販売法35条の3の12)。
契約時より1年を過ぎている場合でも、民法により、詐欺、錯誤、公序良俗違反等を主張して
契約を取消したり無効にできる可能性があります。
【解説】
1 過量販売の規制
着物、寝具、健康食品、住宅リフォーム等について、業者の訪問販売により、高齢者を中心に、次々と契約を押し付けられ、過剰に商品を購入させられて、深刻な被害を生じています(過剰販売、次々販売などといいます)。
ところで、民法の詐欺、錯誤等の規定で契約を解消しようとすると、消費者の方で、契約の一つ一つについて、勧誘行為の違法性や、意思表示の瑕疵を立証する必要がありますが、それは容易ではありません。高齢者など購入した記憶がないことさえしばしばです。
そのため、平成20年の改正により、過量な販売を行ったときは、取引ごとの勧誘行為の違法性を証明しなくても、契約を解除できるようにして被害を救済しやすくしました。
改正法は、訪問販売により過量な商品・役務を購入した場合、購入者はその契約を解除することができると定めたのです。ただし、過量購入を必要とする特別の事情があったことを販売業者の側で証明したときは、購入者は解除できないことにしました(特定商取引法9条の2)。そして、それらの商品・役務をクレジットで購入していた場合は、そのクレジット契約も解除できるように定めました(割賦販売法35条の3の12)。
2 過量販売とは
「過量」とは、その商品の分量がその申込者の「日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える」場合をいいます(特定商取引法9条の2第1項)。
具体的には、家族構成、財産の状況、商品の種類・特性・価格、購入目的など個々の事案に応じて判断されます。
過量性の目安について、公益社団法人日本訪問販売協会は、実態調査に基づいて、平成21年10月、「通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安」について、まとめています。それによれば、一人が使用する量として、寝具(敷布団、掛け布団、毛布、枕等)は1組とされています。先ほど述べたように「過量」になるかは個々の事案ごとに判断されますから、この目安を超えると直ちに過量販売になるわけではありませんが、一応の参考にはなります。ちなみに、健康食品なら、1年間に10か月分、着物(着物・帯・襦袢・羽織・草履等)なら、1セット、住宅リフォームなら、築10年以上の住宅一戸につき1工事、が目安とされています。
お母さんの場合、高齢の一人暮らしで、あなた以外はめったに宿泊者はないというのですから、寝具一式を何組もそろえる必要はなく、かつ50万円は年金生活者にとって高額な負担であり、過量にあたると思われます。
そこで、お尋ねのケースでは、少なくとも1組を超える寝具類の販売は過量販売として解除ができるものと思われます。
なお、複数回にわたり契約を締結する場合、業者に過量な販売となることの認識が必要ですが(特定商取引法9条の2第1項2号)、お尋ねのケースでは、同一業者が繰り返し販売したようなので、その業者が過量性を認識していたことは明らかです。
3 契約を必要とする特別の事情がある場合とは
例えば、親族等に贈るためとか、家族等に頼まれて追加購入する場合とか、多人数が泊まりにくる予定があるなど、特に布団が何組も必要である特別の事情がある場合、その事情の存在を業者が明らかにしたときは、解除できません。
4 解除した場合の効果について
過量販売で解除した場合、お母さんは、支払った代金の返還を受けることができます(特定商取引法9条6項)。
解除した契約により受取った寝具類は業者に返還しなければなりませんが、引取費用は業者負担です(同条4項)。
なお、業者は、解除に伴う損害賠償や違約金の請求はできません(同条3項)。
以上
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