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     高齢者を支える親族のための法律知識
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                                           平成25年2月1日
                                                  弁護士  亀井 美智子


【Q8】 介護事故
       私の父は、要介護認定を受けて有料老人ホームに入居していますが、先日施設から連絡が
     あり、父が転んで骨折し、入院したというのです。父は自宅にいたときからよく転んでいたので、
     注意してください、と何度も施設の人には話しておいたのに、プロがいて何でこんなことになるの
     でしょうか、納得できません。損害賠償を請求できませんか?

【A8】
       入所利用契約上、施設は、利用者の心身の状況を前提として、その生命及び健康等を危険
     から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っており、その義務違反があれば、債務
     不履行による損害賠償責任を追及することができます。
       安全配慮義務違反の有無は、施設が把握していた利用者の心身の状況について、介護記録、
     要介護認定の際の調査書、医師の意見書、ケアプランなどの資料を調査します。そのうえで、
     事故の状況について、医師の診断書、介護事故報告書のほか、事故の具体的状況の詳細に
     ついて施設側から説明を聞く必要があります。なお、調査票、介護事故報告書は、市町村に対
     する情報開示請求により入手します。

【解説】
1 施設の安全配慮義務
 転倒や誤嚥など介護事故により近親者が損害賠償請求の訴訟を起こすケースが増えています。特に、施設側が利用者の心身の状況を十分に把握していないショートステイで事故が多発しているようです。
 ところで、要介護認定を申請すると、調査員が、介護の必要性について、85項目について、調査を行い、その他、移動、動作、コミュニケーション、問題行動等の特記事項が調査票に記載されます。それから、要介護認定を受けると、ケアマネージャーがさらに調査をして、その人はどのような介護サービスをどれだけ受けるかについて、ケアプランを作成するしくみになっています。
 施設側は、これらの介護認定の際の調査票、医師の意見書、ケアプランのほか、在宅での介護状況、医師の診断結果、病歴などを調査し、適切な介護を行う必要があります。
 次に、具体的に、施設の安全配慮義務がどのようなものか、介護事故により損害賠償を請求した事例について、判例を見てみましょう。

2 施設側の損害賠償責任を認めた事例
(1) 介護老人保健施設に入所中の高齢者が職員が見守っていないときに転倒、骨折した事例で、裁判所は、「被告は、原告が本件介護施設入所後多数回転倒しており、転倒の危険性が高いことをよく知っていたのであるから、入所利用契約上の安全配慮義務の一内容として、原告がベッドから立ち上がる際などに転倒することのないように見守り、原告が転倒する危険のある行動に出た場合には、その転倒を回避する措置を講ずる義務を負っていた。」とし、見守りの空白時間に事故が起きたとすれば見守りが不十分であったと言わざるを得ないとして、債務不履行責任を認めました(東京地裁平成24年3月28日)。

(2) 指定痴呆対応型共同介護施設(グループホーム)において、要介護者がカーテンを開ける際に転倒し(第1事故)、大腿骨骨折により入院し手術を受けリハビリにより歩行可能となった約4カ月後、再びカーテンの開閉時に転倒し(第2事故)、坐骨骨折により入院したケースで、裁判所は、第1事故後も、就寝後の巡視や原告居室内のタンスの配置換えにより原告の転倒を防止する配慮をしたに止まり、「それ以上の対策、例えば、被告職員が把握していたカーテンの開閉などの原告の習慣的な行動は、被告職員の巡視や見守りの際にさせたり、原告が1人で歩く際には杖などの補助器具を与えるなどの対策をとったり、そうした対策を検討していた形跡はない」などとして、施設の損害賠償責任を認めました(神戸地裁伊丹支部平成21年12月17日)。

3 施設側の損害賠償責任を否定した事例
(1) 短期入所生活介護(ショートステイ)として入所した要介護の高齢者が、転倒により頭部に受傷した事例で、裁判所は、「被告は、本件介護契約の付随的義務として、原告に対し、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務(以下「安全配慮義務」という)を信義則上負担していると解される。もっとも、その安全配慮義務の内容やその違反があるかどうかについては、本件介護契約の前提とする被告の人的物的体制、原告の状態等に照らして現実的に判断すべきである。」とし、夜間徘徊して転倒しないよう個室に離床センサーを取り付けて対応し、反応する都度部屋を訪問し原告を臥床させていたこと、ケアマネージャーに退所させることや睡眠剤の処方を相談していたこと、転落防止の柵を設置していたことなどから、安全配慮義務違反はないとしました(東京地裁平成24年5月30日)。

(2) グループホームで要介護者が嘔吐、下痢等の症状を呈し、入院先で死亡したケースで、控訴人側が、嘔吐した時点で要介護者(亡太郎)を緊急搬送していれば生存していたと主張したのに対し、裁判所は、嘔吐した時点で亡太郎に意識障害は認められず、血圧・脈拍等にも特段の異常はなかったのだから、直ちに医療機関に緊急搬送すべき必要は認め難いとし、「このような状況の下で看護師の指示に従って水分補給等の措置をとり、同日午後11時30分以降入眠した亡太郎の経過観察を継続した被控訴人担当者の措置が、介護施設の担当者としての注意義務に違反するものでない」とし、施設側の責任を否定しました(東京高裁平成22年9月30日)。

4 以上の判例によると、裁判所は、当該施設の人的物的設備を前提として介護契約上の義務の範囲程度を検討しており、また、利用者に関し過去に同様の事故が起こっていた場合は、施設側の具体的な再発防止策が重視されているようです。
 そこで、お尋ねのケースでも、施設側が、お父さんの転倒防止についてどのような配慮や対策をしていたのか、十分な説明を聞く必要があります。なお、施設が施設賠償責任保険に加入している場合もありますので、その点も確認してみてください。
 
                                                  以上

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