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     高齢者を支える親族のための法律知識
      
                                    【バックナンバー】

                                           平成25年4月1日
                                                  弁護士  亀井 美智子


【Q10】 過去の扶養料の求償請求
       私は、自営業ですが、母が亡くなる前5年間、ずっと母の介護や生活の費用を負担してきま
     した。母の子は三人で、私のほか二人の兄がいますが、兄たちは、一流企業のサラリーマンな
     のに偶に母の顔を見に来るくらいで何の負担もしませんでした。子として母親の面倒をみるのは
     当然ですが、私も決して楽な暮らしであったわけではないので、兄たちに一部でも負担してもら
     いたいのですが、請求できませんか?

【A10】
       母親が亡くなった後、過去の扶養料について、その分担金額を決めるために兄らと協議を行
     い、協議が整わない場合は、家庭裁判所に申し立てて、分担金額を決めてもらい、同時に兄ら
     に対し、給付命令を出してもらうことができます。
 
【解説】
1 過去の扶養料を求償できるか
 扶養義務者については、民法877条が、直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があると定めています。そして、扶養義務者が複数いる場合は、扶養すべき者の順序、扶養の程度・方法については、まず当事者間で協議を行い、協議が調わないときは、扶養義務者の資力等一切の事情を考慮して家庭裁判所が定めると規定されています(民法878条、879条)。
 ところで本来、この規定が想定しているのは、扶養権利者(以下「本人」といいます)が生存していて生活の扶養を必要としている場合です。
 しかし、本件のように、上記の協議が行われず、分担額を決めないうちに、本人が亡くなってしまった場合、過去の扶養料についても、上記の規定により、他の扶養義務者に求償できるでしょうか。
 これを、もし請求できないとすれば、扶養義務を負っているのに知らんふりをしていた冷淡な人が常に得をする結果となってしまい、不衡平です。そのため、過去の扶養料の分担額についても、前記の民法の規定に従い、まず協議をしてみて協議が整わない場合は、過去に遡って家庭裁判所が各自の資力その他一切の事情を考慮して扶養分担額を決めることができるというのが判例です(最判昭和42年2月17日)。そして、分担額の決定と同時に、兄らに対し、給付命令を付してもらうこともできます(家事事件手続法185条)。

2 求償の範囲
 求償できる金額は、実際に費やした額ではなく、生活費需要の範囲に止まります。家庭裁判所における生活費需要の算定は、実費方式、標準生計費方式、労研方式、生活保護基準方式などによって行われています(詳しくはバックナンバーQ2「老齢の親に対する子の扶養義務」ご参照)。

 次に、いつまでの扶養料を請求できるかです。要扶養状態となった時点まで遡って請求できるとする説もありますが、判例では、どの程度遡るかも裁判所が負担の衡平を図る見地から扶養の期間、程度、各当事者の出費額、資力等の事情を考慮して定めるとし、調停申立時から5年前に遡った時点以降の求償を認めた事例があります(東京高判昭和61年9月10日)。

3 扶養の分担額に関する協議
 民法878条、879条の扶養義務者の協議は、必ずしも扶養義務者全員に声をかけなくてもよいのです。ところで、家裁が扶養の順位を決める場合、生活保持義務を負う人(たとえば夫)、同居の親族、直系血族間、を優先する傾向にありますから、これらの人の中で、扶養の余力がありそうな親族に声をかければよいでしょう。なお、声をかけられた人は、扶養の余力がなくても参加すべきです。
 本件では、兄二人に声をかけ、まずは亡母の扶養に必要であった金額を説明してください。総務省統計局のHPや各都道府県のHPで公表されている標準生計費なども参考に示すとよいでしょう。
 次に分担額を話し合います。裁判所は、各人の資力のほか、本人の職業ないし社会的地位、相続関係(たとえば全遺産を単独相続した長男など)、過去の扶養の有無、本人が過去に扶養義務を履行しなかったこと(たとえば養育責任を果たさず十数年没交渉であった父の請求)などの事情も斟酌して決定していますので、協議の際の参考にしてください。
 
                                                  以上

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