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     高齢者を支える親族のための法律知識
       
                                               
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                                           平成25年5月1日
                                                  弁護士  亀井 美智子


【Q11】 お墓は誰が承継する?
       私の父は、これまで田舎にある先祖代々のお墓を大切に管理してきましたが、高齢のため
     最近は足腰が弱ってめったに行けず、代わりに私が行ってお参りや掃除をしています。母は昨
     年亡くなり、子供に男の兄弟はいません。今後もし父に万一のことがあったら、私たち姉妹は、
     お墓の刻字と違う姓ですし、お墓は誰が引き継ぐことになるのでしょうか。

【A11】
       お墓を承継する人は、第一に被相続人(父)の指定した人です。指定がない場合は、慣習に
     したがって決定されます。慣習も明らかでないときは、被相続人が亡くなった後に、調停や審判
     を申し立てて家庭裁判所が定めることになります(民法897条)。
 
【解説】
1 お墓は祭祀財産
 お墓は、「祭祀財産」といって、被相続人が所有していたものでも、相続の対象とはなりません。そして祭祀財産は、「祭祀承継者」(2項で説明します)が承継します。
 祭祀財産には、お墓(墓石、墓碑、墓地)のほかに、祭具(位牌、仏壇、仏具、神棚など)、系譜(家系図、過去帳など)があります。墓地は、所有権の場合もありますが、多くが墓地使用権です。もっとも、墓地使用権(永代使用権など)の承継については、その墓地の管理規則に従って名義変更の手続きをする必要があります。

2 祭祀承継者とは
 祭祀承継者は、祖先の祭祀を主宰すべき者です。
 お墓の刻字と異なる姓の人でも、かまいません。実際、裁判所が祭祀承継者として被相続人と別姓の娘を指定した事例は多数あります。
 また、相続人である必要も、親族でなくても(たとえば友人)、差し支えありません。

 祭祀承継者が承継する祭祀財産は、どんなに価値があるものでも、相続財産ではありませんから、相続税の対象にはなりませんし、相続分や遺留分の計算の基礎とされることはありません。
 ただし、祭祀承継者が、祭祀を行ったり、祭祀財産を管理するについて費用がかかる場合があります。たとえば、永代使用契約を承継すると墓地管理料の支払義務を負います。けれども、その費用を他の相続人に請求できませんし、その分相続分を多くするように求めることもできないというのが判例です。祭祀承継者は、祭祀を行う義務を負うわけではないから、というのがその理由です(東京高決昭和28年9月4日)。
 
3 祭祀承継者を誰にするか
 祭祀承継者は、次のようにして決まります(民法897条)。

(1) 被相続人(父)の指定
  指定は書面や口頭でもよいし、遺言によって指定することもできます。指定された人は辞退できないと解
 されています。

(2) 慣習
  被相続人の指定がない場合は、「慣習」にしたがって決定されます。「慣習」とは、その地方の慣習、被相
 続人の出身地の慣習、被相続人の職業に特有の慣習などをいいます。
  現実には長男が承継する慣習が多いように思いますが、裁判所は、家督相続制度が廃止されたことか
 ら、長子承継の慣習が存すると認めるに足る証拠はない、と否定しています(広島高裁平成12年8月25
 日など)。

(3) 被相続人の指定がなく、慣習も明らかでないときは、調停や審判により家庭裁判所が定めることになり
 ます。
  なお、実際には、残された家族や親族などの話し合いにより、誰に継がせたがっていたか被相続人の意
 思を推定して決定されることが多いようです。


2 家庭裁判所は祭祀承継者をどのような基準で選ぶか
 家庭裁判所が祭祀承継者を指定する場合、被相続人との身分関係のほか、過去の生活関係、生活感情の緊密度、承継者の祭祀主宰の意思や能力、利害関係人の意見等諸般の事情を総合して判断するものとされています(大阪高裁昭和59年10月15日)。
 また、家制度が廃止された今日、祖先の祭祀は、もはや義務としてではなく死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちによってなされるべきものなので、遠い昔の祖先よりも近い祖先、つまり被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し、上記のような心情を強く持つ者を選ぶべきであると考えられています(東京高裁平成18年4月19日など)。

3 本件の場合
 前記のとおり、お墓の承継者を誰にするかは、被相続人の指定が最優先されますから、お父さんの意思を確認しておくことが一番いい方法と思います。指定は口頭でもいいのですが、後日問題にならないよう、書面にしておくとよいでしょう。  

                                                   以上

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