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     高齢者を支える親族のための法律知識
       
                                               
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                                           平成25年6月1日
                                                  弁護士  亀井 美智子


【Q12】 尊厳死宣言を公正証書で
       私は80歳の母と同居していますが、母は心臓が弱く心筋梗塞で倒れたことも何度かあり
     ます。母は日ごろから、延命治療は望まないと言っていますが、母の真意をきちんと確認して
     おかないと、私自身、万一のときに延命治療を断る勇気があるのか不安です。また、離れて
     暮らす兄弟たちにも母の意思がきちんと分かるようにしておく何かよい方法はないものでしょ
     うか。

【A12】
       尊厳死宣言を公正証書により行う方法があります。公証人がお母様の真意を確認し作成
     します。そこで、お母様自身、宣言に際して、自己の病状や、予後に関する知識や、尊厳死の
     趣旨、余命治療の内容等を理解して、家族の意向なども踏まえ慎重に判断をされることになり
     ますし、担当医師や家族に対して明確なメッセージとして残すことができます。
 
【解説】
1 延命治療とは
 延命治療とは、「回復の見込みがなく、死期が迫っている終末期の患者への生命維持のための医療行為」をいいます。具体的には、人工呼吸器、昇圧剤の使用などによる心肺機能の維持、点滴による水分・栄養補給などをいうとされていますが、これらを使用する場合でも、医師でも、どこまでが救命治療で、どこからが延命治療なのか、判断が難しい場合もあるようです。
 そして、「尊厳死」とは、「延命治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせること」をいい、その意思を表明する文書が尊厳死宣言(リビング・ウィル)です。

2 尊厳死宣言公正証書とは
 日本公証人連合会が公表しているモデル文例により、具体的に、尊厳死宣言として公正証書に記載される内容を見てみましょう。
 (1)不治で死期が迫っていることを2名以上の医師が診断したこと、(2)延命措置は行わないこと、(3)苦痛緩和処置は最大限実施すること、麻薬などの副作用で死期が早まっても許容すること、(4)家族の了解を得ていること、(5)医師や家族の刑事責任を問わないでほしいこと、最後に(6)精神が健全なときに宣言したこと、本人が撤回しない限り効力を持続すること、を記載します。

3 尊厳死宣言があれば延命措置はとられないか?
 欧米では、終末期に生命維持装置を使わないよう要請する本人作成の書面により、これに従った医師の責任を問わないものとする法律を制定している国が増えています。しかし、我が国では、まだ尊厳死を対象とする法律はありません。
 また、延命治療にあたるのか、医学的な判断が難しい場合もあります。
 そのため、尊厳死宣言の文書により直ちに医師が延命措置の中止を行うとまでは言えません。

 しかし、終末期医療における医療行為の不開始や中止は、患者本人の自己決定権の行使として、本人の決定を基本とし尊重すべきであると考えられています(平成19年5月の厚生労働省「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」)。

 判例においても、医師が、意識を失った患者の延命措置を中止したことで殺人罪に問われたケースで、患者は、幸福追求権の一つとして死の迎え方を自分で決めることができ、医師に治療の中止を求めることができるとし、病状から本人の意思を確認できないときは、本人の真意を知る手掛かりとして、事前の意思が記録されているもの(リビング・ウィル等)も確認の有力な手掛かりとなるとしています(横浜地裁平成17年3月25日、横浜地裁平成7年3月28日)。
 なお、家族の要請や承諾による治療中止については、家族の意思表示により本人の意思を推定できる場合があるとした判例と(前記平成7年の横浜地裁判例)、家族の意思のみによっては本人の意思を推定できないとする判例があります(東京高裁平成19年2月28日)。

4 尊厳死宣言を公正証書で行うことメリット
 尊厳死宣言公正証書は、公証人が、嘱託した本人から、嘱託の動機、真意、家族の意向等についても詳しく話を聞いて、助言したうえで、最終的に述べられた内容を録取して作成します。
 公証人は、本人が死の危険を想定している病気があれば、自己の病状、治療内容、予後等について十分な知識と正確な認識を持っているか、尊厳死の趣旨、余命治療の内容や、それを中止することの意味を理解しているか、家族とも十分話し合ったうえで宣言に望んでいるか、などについても詳しく話を聞いて作成するものと思われますので、本人の真意を正確に文書にすることができます。
 そこで、できれば尊厳死を迎える状況になる前に担当医師に、尊厳死宣言公正証書を渡して見てもらい、本人の意思を説明しておくとよいでしょう。

                                                   以上

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