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     高齢者を支える親族のための法律知識
       
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平成26年7月14日

弁護士 亀井 美智子

【Q15】 プロ向けファンドによる被害

80歳の母が、業者から、年利10%から12%の配当が受けられるファンドに投資しないかと勧誘を受けて、100万円を支払ってしまいました。

ファンドを説明するパンフレットを読みましたが、仕組みが複雑で理解できず、リスクも高いようなので、契約を取消して母にお金を返してもらいたいのですが、できませんか?

 

【A15】

お尋ねの件は、高齢者の被害が深刻な「プロ向けファンド」の事例ではないかと思います。その業者が、年利10%から12%は間違いなく儲かると言ったり、元本保証を謳ったり、リスクを説明しない等の場合は、消費者契約法により、契約を取消して、返金を請求することができます。そのほか、金融商品取引法違反による不法行為に基づく損害賠償や、金融商品販売法違反により損害賠償を請求できる場合があります。ただし、現実には、契約を取消すなどしても、業者と連絡がつかなくなったり、業者に資金が残っていなかったりして、被害回復が難しいケースが多いようです。

 

【解説】

1 「プロ向けファンド」とは

「プロ向けファンド」とは、1人以上の投資のプロ(証券会社や銀行等の適格機関投資家)と49人以下のアマ(一般投資家)を相手として取得の勧誘が行われる、プロ投資家向けのハイリスクで複雑なファンドです(金融商品取引法63条)。プロ投資家のベンチャー企業等に対する速やかな資金調達を可能にする例外措置として、金融商品取引法の規制は、ゆるく設定されています(後に詳述)。

 

ところが、アマの範囲が、人数だけの規制のため、高齢者を中心とする投資経験の乏しいアマにも勧誘、販売されることになり、多くの消費者トラブルが生ずることになりました。

 

2 プロ向けファンドの被害

国民生活センターの調査によれば、プロ向けファンド業者に関する相談は増加しており、2012年度は1,518件の相談が寄せられ、3年前(2009年度)に比較すると約10倍という深刻なものです。被害者のうち9割が、60歳以上の高齢者だそうです。

 

そして、プロ向けファンドの被害の3割が「劇場型勧誘」という手口で行われています。「劇場型勧誘」というのは、「買え買え詐欺」とも言われ、複数の業者が役回りを分担し、パンフレットを送り付けたり電話で勧誘したりして、あたかも得をするように信じ込ませて金融商品などを買わせる手口です。たとえば、自宅にA社のパンフレットが送られてきて、B社から電話があり、「A社が販売している未公開株は大変価値があるが、封筒が届いた人しか買えないので、代わりに購入してくれれば、B社が高値で買い取る。」などと言われ、お金を払ってしまう事例です。

 

3 なぜプロ向けファンドはアマも勧誘対象としているのか?

それでは、なぜプロだけでなくアマも勧誘できるようにしたのか、ですが、ベンチャー等の資金調達を円滑に行いたいという理由もありますが、実務上、ファンド関係者も出資することが多く、そのファンド関係者は、プロには該当しないことがあるため、少人数なら容認する趣旨のようです。

 

4 金融商品取引法のどういう点がゆるい規制になっているのか

プロ向けファンドは、プロの投資を募るためのファンドであるため、次のように、金融商品取引法の規制が、ゆるくなっています。

 

プロ向けであることから、業者は、金融商品取引業を行う者に義務付けられている「登録」を必要とせず、「届出」でよいとされています(金融商品取引法63条)。

また、広告規制(同法37条、商号や登録番号など一定事項の表示義務と誇大広告の禁止)、契約締結前・締結時書面交付義務(同法37条の3、4)、断定的判断の提供の禁止(同法38条、不確実なのに、断定的判断を示したり、確実であると誤解させたりすることの禁止)、迷惑勧誘の禁止(同法38条、勧誘を要請していないのに、訪問や電話をかけて勧誘したり、断っているのに勧誘を続けるなどの禁止)、適合性の原則(同法40条1項、顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当な勧誘の禁止)は、適用がありません。

ただし、プロ向けファンドでも、虚偽告知の禁止(同法38条)と損失補てんの禁止(同法39条、損失が出たら補填したり、利益を提供したりする約束の禁止)は適用されます。

 

5 被害を受けたときは、どうしたらよいか。

金融商品取引法は行政法規なのでその違反が直ちに民法上の不法行為(民法709条)になるわけではありません。しかし、虚偽告知や、損失補てんの約束による同法違反の程度が著しい場合は、民法上も不法行為に基づく損害賠償請求することが可能です。

また、金融商品販売法により、業者が、投資のリスク等についての説明を怠り、あるいは断定的判断を提供し、それによって顧客に損害を生じさせたときは、損害賠償義務を負います(同法5条)。

さらに、プロ向けファンドがアマ(消費者)を対象とするときは、消費者契約法の適用がありますから、不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知により消費者の誤解を招く説明があり、あるいは、断っても勧誘を続け退去しないなど消費者を困惑させる勧誘を受け、それによって契約した場合、消費者は、契約を取り消すことができます(同法4条)。

 

6 今後の規制は?

  金融庁は、アマの範囲について、「一定の属性」を要件にする金融商品取引法の政令などを改正し、平成26年8月1日から施行します。

「一定の属性」と言うのは、個人への販売の場合、金融資産1億円以上の富裕層、ファンド資産運用業者の役員、使用人などです。

これにより、投資経験のない高齢者が勧誘の対象となることは無くなりま
 す。

  ただし、今後も違法な詐欺的勧誘は行われる恐れはありますので、親族から高齢者の方に、リスクを説明せず、「必ずもうかる」「年利○%保証」などという業者とは契約しない、「名前を貸して」、「代わりに買って・・・」などは買え買え詐欺なので直ちに電話を切ることをアドバイスし、不安なときはお金を払う前に、親族に相談してほしい、と伝えましょう。また、親族の方からも、日ごろから本人の様子に気をつけ、声をかけたりする見守りが重要と思います。

以上


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