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     高齢者を支える親族のための法律知識
       
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平成29年3月14日

弁護士 亀井 美智子

【Q23】介護していた叔母の遺産を受取れないか

私は、10年程前から近くに住んでいる叔母の世話をしてきました。叔母は高齢で足も悪いので、食事を作ってあげたり、掃除を手伝ったり、買い物や病院につきそったり、叔母が軽い認知症をわずらってからは、頼まれて預貯金の管理や様々な支払いなどもしてきました。先日叔母が亡くなりましたが、叔母は、未婚で兄弟姉妹もいません。相続人がいないと遺産は国のものになると聞きましたが、遺産の一部を私が受取ることはできないでしょうか。

 

【A23】

相続人がいない場合、相続財産は、国庫に帰属するのが原則ですが(民法959条)、一定の要件の下に、相続人の内縁の妻とか、事実上の養子のように法律上は相続人でなくても、被相続人と深い縁故があった者に遺産が与えられる場合があります(民法958条の3)。

 

【解説】

1 特別縁故者とは

  特別縁故者について、民法958条の3は「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」と定めています。そこで、「生計同一」「療養看護」の例示から考えて、特別縁故者とは、少なくとも過去のある一定時期に、具体的、現実的に、被相続人との間に縁故が存在していたことが必要と考えらえます。たとえば遠縁の親戚という関係だけでは、特別縁故者とはいえません。なお特別縁故者は、法人でもかまいません。近時、老人福祉施設等その例が増えてきているようです。

 以下に、特別縁故者として認めた事例、認められなかった事例に分け、判例を照会します。

 

2 特別縁故者と認められた事例

 (1) 障害者支援施設

障害者支援施設を運営する社会福祉法人の申立に対し、被相続人の療養看護に努めた者として、特別縁故者に当たるとした事例です。裁判所は、同施設について、約35年間にわたって、知的障害及び身体障害を有し、意思疎通が困難であった被相続人と信頼関係を築くことに努めた上、食事、排泄、入浴等の日常的な介助のほか、昼夜を問わず頻発するてんかんの発作に対応したり、ほぼ寝たきりとなって以降は、被相続人を温泉付きの施設に転居させて、専用のリフトや特別浴槽を購入してまで介助に当たるとともに、その死亡後は葬儀や永代供養を行うなどしており、このような療養看護は、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超え、近親者の行う世話に匹敵すべきものであるとし、特別縁故者と認めました(名古屋高等裁判所金沢支部決定 平成28年11月28日)。

 

(2) 長年世話をしてきた近隣在住の知人

被相続人が死亡するまで約13年にわたって被相続人の身の回りの世話をしてきた近隣在住の知人について、被相続人についての成年後見申立てに向けた支援をしたこと、また、被相続人が生前、同人が亡くなった後の不動産及び預貯金を同知人を含む5名に遺贈しようと考えてその旨の書面を作成したことなどにより、相続財産の全部又は一部を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があったと評価するのが相当であるとし、特別縁故者に当たると認定しました(大阪高裁決定 平成28年3月2日)。

 

(3) 介護付入居施設

介護施設を運営する一般社団法人について、労災事故により全身麻痺となって入所し、入所中に死亡した被相続人につき、約6年間献身的な介護を行ったとし、被相続人の療養看護に努めた者として特別縁故者に当たると判断しました(高松高裁決定 平成26年9月5日)。

 

3 特別縁故者と認められなかった事例

(1) 従姉妹

裏付け資料は申立人らの陳述書等だけであって,客観的に申立人らが被相続人の特別縁故者に該当することを裏付けるには十分ではなく、被相続人と親戚同士として,通常の親戚付き合いをしていたであろうことは推認しうるものの,親族としての情誼に基づく交流を超えるような特に親密な付き合いをしていたことまで認めるに足りる資料は見当たらないから,申立人らについて,直ちに「被相続人と生計を同じくしていた者」や「被相続人の療養看護に努めた者」ないしそれに準じる者というには十分ではないとし、民法958条の3第1項所定の「特別縁故者」の要件に該当しない、としました(東京高裁 平成27年2月27日)。

 

(2) 従姉の養子

申立人は、被相続人の生前に、特別の縁故があったといえる程度に被相続人との身分関係及び交流があったということができないとし、特別縁故者と認めませんでした(東京高裁決定 平成26年1月15日)。

 

4 手続きについて

相続人がいるかどうか不明の場合、利害関係人などから相続開始地の家庭裁判所に申立をして、相続財産管理人が選任されます(民法952条)。この申立は、特別縁故による相続財産の分与を受けようとしているあなたも、利害関係人として申立てができます。

そして、相続人が見つからなければ、家裁は、相続財産管理人などの申立てにより、相続人がいるならば申し出をするように催告する公告をします(同法958条)。あなたは、この公告期間満了後3ヶ月以内に、家裁に特別縁故者として相続財産処分の申立てを行ない、家裁が特別縁故者と認めれば、相続財産を与える決定を得ることができます。

なお、家裁に提出する特別縁故を証明する資料としては、叔母さんの財産の収支を管理してきた当時の帳簿や通帳の記載とか、支出管理のため保管していた納付書、領収証、振込み控えや、付添いや世話をしたことが記録された当時の手帳、日記などが考えられます。また、判例によると(たとえば、2項(2)の判例)、叔母さんがお世話になったあなたに、財産の一部を遺贈ないし贈与をしたい意向を記載した文書などがあれば、重視されているようです。資料がないか調べてみてください。

以上

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