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平成29年3月14日

弁護士 亀井 美智子

【Q22】使用貸借不動産の返還請求

父は5年前に居住建物を兄に生前贈与し、父母はその建物を兄から無償で借りて住んでいました。ところが、先日父が亡くなって、兄は、母に建物の明渡しを求めています。兄は、母とは仲が悪かったとはいえ、高齢で年金生活ですし、父が亡くなった途端に追い出すなんてあんまりです。母に住み続ける権利はないのでしょうか?

 

【A22】

他人の物を無償で使用する契約を使用貸借契約といいます。契約期間を決めないで借りた場合、民法597条2項は、「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。」と定めています

お尋ねのケースでは、私見ですが、兄は建物を父と母の居住目的で貸したものと思われ、母が居住のために現に使用している以上、5年経過していても使用収益に足りる期間は経過していないと考えます。よって、母は、使用貸借権を主張して、明渡しを拒むことができます

 

【解説】

1 使用貸借とは

 使用貸借とは、物(不動産、動産)を無償で使用収益する契約です(民法593条)。有償で使用収益する場合の賃貸借と対比されます

無償なので、貸主の厚意による貸借関係で契約書も作成されていないことが多く、通常は貸主と借主との間に特別な人間関係のあることが前提となっています

そこで、貸主と借主の人間関係が悪くなったときや、貸主が亡くなったり、変わったりした場合には、トラブルになることが多いのです。

 

2 借用物の返還時期

使用貸借は、貸主が借主と特別の関係があるからこそ無償で貸すのですから、借主が亡くなったときは終了すると定められています(民法599条)。お尋ねのケースでは、父の死亡により父の使用貸借は終了となり、相続されません。父の死亡後は、母の使用貸借権について、その返還時期が問題となります

そして、タダで貸している物でも、必ずしも、いつでも返してくれといえるわけではありません。民法597条は、借用物の返還時期を以下のとおり定めています

① 契約に定めた時期

② 契約に定めた目的に従い使用収益を終わった時

  ただし、使用収益をするに足りる期間を経過したときは、貸主は直ちに

 返還請求できる

③ 使用収益の目的を定めなかったときは、いつでも返還請求できる。

お尋ねのケースでは使用収益の目的は「父母の居住目的」と思われ、返還時期の合意が無かったとすると、母の使用貸借が②のただし書き「使用収益をするに足りる期間を経過したとき」に該当するか否かが問題となります。

 

3 「使用収益をするに足りる期間を経過したとき」とは

  判例は、使用収益をするに足りる期間(以下「相当期間」といいます)を経過したか否かは、経過した年月のみにとらわれて判断することなく、無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、使用目的、方法、程度、貸主が使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較考量して判断すべき、としています(最高裁昭和45年10月16日)

相当期間の判断は、一概に○年間とは言えません。居住目的の建物使用貸借の事例で貸主から返還を請求された判例を見ると、相当期間は、3年、5年で経過したとするものもあれば、28年経っても相当期間を経過していないとするもの、死亡するまで使用させる契約が黙示的に成立していたというものまであります

お尋ねのケースでは、父が兄に建物を生前贈与する際、父又は母が生存する限り父母の住居を確保するため使用貸借を継続する趣旨であったと考えられます。そこで、相当期間は、母が居住の必要がある限りは存続すると考えられるのではないでしょうか。

 

4 契約期間を明記した使用貸借契約書の作成

前項のとおり、相当期間の判断は、何年なのか明確ではありません。そこで、高齢の両親から不動産を無償で借りている親族の方は、ご両親がお元気なうちに、使用貸借契約書を取り交わしておくことをお薦めします

契約期間を○年までと明確に定めておけば、万一ご両親にご不幸があって、建物が共同相続されたり、自分が相続できなくても、前記のとおり、民法597条1項により、契約書に定めた契約期間内は使用を続けることができます。

以上

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