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     高齢者を支える親族のための法律知識
       
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平成30年8月1日

弁護士 亀井 美智子

【Q24】認知症の母の自宅を担保にお金を借りたい

私は、私が代表を務める会社の資金繰りのため、銀行から2億円を借り入れたいのですが、私の自宅だけでは銀行から担保不足を告げらました。そこで、追加担保として母所有の自宅も担保に入れて、融資を受けたいと思います。母は賛成してくれていますが、高齢で認知症を患い、要介護4の認定を受けています。今後契約などのとき大丈夫でしょうか?

 

【A24】

 母が担保設定契約書にサインしたとしても、後日、例えば母の相続人から、意思能力の問題で契約の無効を主張される可能性があります。意思能力の問題は、母のため成年後見人を選任すれば解決しますが、成年後見人は、母にとって必要性がなく、むしろ会社が返済できない場合、母は自宅を失うおそれがあることから、担保設定契約の締結には応じないと考えられます。

 

【解説】

1 意思無能力による契約の無効

お尋ねの担保設定契約は、事業資金の融資であることから、極度額が2億円を上回る金額の根抵当権設定契約であると推測されます。

ところで、根抵当権を設定するには、根抵当権に関するそれなりの法的な理解を前提として根抵当権設定契約の意味を理解し、融資を受ける会社の経営状況を考慮し、会社が返済できない場合のリスクと結果を想定して判断する必要があり、後日、根抵当権設定者(母)にこの判断が可能な意思能力があったかが問題とされることがあります。

母が意思能力を欠く場合、仮に母が根抵当権設定契約書に署名捺印し、契約が成立したとしても、同契約は無効となってしまいます。

 

母のように介護認定を受けている人の場合に、無効を主張する側において資料とされることが多いのが介護保険の認定調査票です。要介護認定は日常の生活動作に関する介護の要否に関するもので、直接精神上の障害があることを認定するものではありませんが、認定調査は、市区町村が派遣した調査員が、意思の伝達能力、短期記憶、金銭の管理、日常の意思決定、日常生活自立度、認知機能、精神・行動障害など本人の心身の状況についても詳しく調査を行います。そこで、根抵当権設定契約を締結した時に直近の認定調査票における上記項目の記録は、主治医意見書等と共に、根抵当権設定者(母)の契約締結時の意思能力を推し量る重要な資料となるのです。

 

また、根抵当権設定には登記が必要となる関係上、契約締結時に司法書士が同席し、各契約書の目的等を母に説明の上、登記委任状にサインを求めていると思いますが、母がその委任状に署名捺印したとしても、司法書士は、銀行側が派遣することが多く、特に親族や親族の関係会社への融資の場合、母の意思確認が親族に任され、司法書士は母とは初対面のこともあり、司法書士が母の意思能力について十分なチェックを行なっていないケースも少なくありません。

 

2 抵当権設定契約について意思無能力により無効とした判例

親族が経営する会社Aが融資を受ける追加担保として、亡Bが自宅の持分に3億円の根抵当権を設定した事例で、裁判所は、亡Bは契約締結前に要介護3の認定を受け、その後アルツハイマー型痴呆症と認定されていたこと等から、「Aの債務について極度額3億円の根抵当権設定契約であって、相応の法的な理解を必要とするものであることを併せ考慮すると、Bは、本件根抵当権設定契約締結当時、同契約の意味を理解するだけの意思能力がなかったと認めるのが相当である。」としました(広島高裁平成28年12月1日)。

また、根抵当権設定契約を締結する5年程前に認知症と診断された亡Cについて、日常の意思決定を行うための認知能力や意思の伝達能力が極めて低い状態であったなどとして「本件抵当権設定契約の意味内容を理解できる能力を有していたとは考えられず、亡Cは意思能力を欠いていたというべきであるから、亡Cによる本件抵当権設定契約締結の意思表示は無効である。」とした判例があります(東京地裁平成28年11月7日判決)

 

3 成年後見人の選任を行う場合

  母の意思能力の問題については、家庭裁判所に成年後見人の選任申立を行ない、母の代わりに成年後見人に契約してもらうという方法も考えられます。

しかし、後見人が根抵当権設定契約を行うか否かについては、根抵当権設定契約が被後見人(母)にとって必要であるか否かで判断します。親族の会社が融資を受けるため、被後見人が自宅を担保提供すると、会社が返済困難な場合、抵当権が実行され、被後見人は、競売により自宅を失うおそれがあります。したがって、根抵当権設定契約は、被後見人に不利益な行為であって、被後見人にとって必要性が認められません。

仮に、後見人が被後見人にとって必要性のない担保提供を行って被後見人が損害を受けたときは、後見人は、善管注意義務違反により、損害賠償請求や、刑事責任を問われる場合がありますから、後見人は契約締結を行わないと考えられます。

  以上

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