本文へジャンプ             

初めてご依頼の方は
学べるコラムQ&A                            
     
     高齢者を支える親族のための法律知識
       
                                               
【バックナンバー】
                                           

平成30年12月14日

弁護士 亀井 美智子


【Q25】債務返済を相続人に託する遺言書の書き方

私は高齢の父母と父所有の家で同居しています。父によると、過去に事業のため借り入れたローンが600万円程残っているそうで、父は、「私に万一のことがあったときは、遺産は全てお前にあげるので、ローンの返済は遺産から行ってほしい。」と言っています。相続人は母、私、弟で、父の財産は自宅の土地建物(2000万円程度)と預貯金(約1000万円)です。父に遺言書を書いてもらおうと思いますが、どのような内容になるのでしょうか。

 

【A25】

 債務があって相続人に遺産で返済するよう遺言しておきたい場合、遺言書の書き方としては、2つあります。①債務の負担付で相続人の一人に財産の全部又は特定の財産を相続させる方法か、②財産の全部または特定の財産を換金して債務を清算後、残りの財産を相続人らに遺贈する方法です。

 

【解説】

1 債務の承継に関する遺言の効力

  まず前提として知っておかなければならないのは、遺言で特定の相続人に債務を承継させると定めても、その効力は債権者に対しては及ばないということです。金銭債務(たとえば借金)のように分けることができる債務(可分債務といいます。)は、債権者との関係では、相続開始と同時に法定相続分に応じて分割して承継されることになります。お尋ねのケースでは、母300万円(2分の1)、相談者150万円(4分の1)、弟150万円(4分の1)です。

遺言の定めが効力を生じるのは、相続人の誰かが債権者の請求に応じて弁済した場合の相続人間の清算関係です。たとえば、債権者が母に亡父の借金の法定相続分300万円を請求し、母が支払ったときは、遺言で相談者が全債務を負うことになっていれば、母は相談者に、300万円を清算してくださいと請求できることになります。

 

なお、相続人の一人に財産を全部相続させるという遺言があった場合は、仮に遺言書に債務については何も書かれていなくても、その遺言の趣旨から、特別の事情がない限りは、その相続人に相続債務もすべて相続させる意思が表示されたものと解すべきだというのが最高裁の判例です(最高裁平成21年3月24日判決)。

 

2 負担付相続の遺言

負担付相続の遺言とは、債務の負担付で、財産全部を相続させる、あるいは特定の財産、例えば自宅の土地建物を相続させる、という遺言です。

  ところで、一定の法律上の義務の負担付で遺贈する遺言を負担付遺贈といいますが(民法1002条)、この規定は、負担付で相続させる遺言にも準用されると解されています。そこで、負担付相続を受けた人は、負担の履行時を基準として、負担が相続の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任があります(民法1002条1項)。そのため、負担付相続の遺言をする場合は、相続させる財産の額と債務の額のバランスに注意する必要があります。

お尋ねのケースでは、600万円程の債務の返済が負担で、相続する財産全部は3000万円程度ということですから、相談者が負担付で父の財産全部を相続すれば、債務の全額について返済する責任があります。

 

3 清算型遺贈

清算型遺贈とは、財産の全部または特定の財産(例えば不動産)を処分して債務等を清算した上で、残りの財産を遺贈する、という遺言です。

換価代金から清算する債務等としては、相続債務のほか、契約費用、仲介手数料、登記費用など換価のための費用なども控除する内容とします。

お尋ねのケースでは、清算型遺贈だと、不動産等の換価代金で債務等を清算した残金を相談者に遺贈することになりますが、不動産は法律的には一旦相続人全員が相続してそれを第三者に売却することになるため、売買契約の締結や、買主への所有権移転登記に相続人の協力が不可欠です。しかし母弟は、何ももらえないのに協力だけ要求され、おまけに譲渡所得税が課税されることになります。そこで、遺言書で遺言執行者を指定しておき、遺言執行者に換金手続きや登記手続きを行ってもらう方がスムーズです。また、譲渡所得税は前記の「清算する債務等」に含めて換価代金から控除する内容の遺言にしておく方が望ましいと考えます。

 

ところで当然のことですが、清算型遺贈は、遺言書で清算の対象となる特定の財産の取得を希望する受遺(相続人)がいる場合は不向きです。お尋ねのケースでは、相談者は、現在父母と同居しているそうですから、父が亡くなった後も、遺産の建物で母と同居を続けたいとお考えかも知れません。相談者は、ご自身の相続債務の返済資力も考慮の上、負担付相続か、清算型遺贈にするのか、父にご希望を伝えておいてください。

 

4 遺留分

父の財産の全部を相談者に取得させる遺言の場合、債務全額を差し引いた財産の価額につき、母は4分の1、弟は8分の1の遺留分減殺請求権を行使することができます(民法1042条、1043条)。たとえば相談者が父と同居して療養看護に努めたなど特別の寄与があったこと、父から母、弟への生前贈与の事実など、父が母や弟に遺産を取得させないことにした理由があるのであれば、遺言書の付言に、書いておいてもらうと父の遺志が明らかになり、遺留分に関する紛争予防になるかも知れません。

以上

  プライバシーポリシー  本サイトに掲載されている写真・情報等の無断転載は一切禁止します。 Copyright (C) 2011 亀井法律事務所 All Rights Reserved.