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平成27年1月30日

弁護士 亀井 美智子

【Q17】 医療保護入院について家族で意見が一致しない

私は母と同居していますが、母は、80歳で重い認知症です。最近は、せん妄がひどくなり、徘徊することも何度かあって、主治医と相談のうえ、私の同意で、精神病院に医療保護入院させました。しかし、兄は、母が入院をひどくいやがっていることもあって、自宅で最期を迎えさせたいと、入院に反対です。兄が退院を請求すると、母は退院になってしまうのでしょうか。

 

【A17】

母に医療保護のため入院の必要性があれば、医療保護入院は、家族のうち、一人の同意により可能です(精神保健福祉法33条)。しかし、入院後に、他の家族から都道府県知事に対して退院請求をすれば(入院時に同意した家族が反対していても)、精神医療審査会が、退院を請求した家族と入院中の病院の話などを聴いて、入院の必要がないと判断すれば、知事を通じて病院に退院させるよう命ずることになります(同法38条の4、同条の5)。

 

【解説】

1 任意入院と強制入院

精神科病院の入院は、患者の自発的な意思に基づく任意入院と、自発的な意思によらない強制入院に分かれます。ご質問ではお母様は重度の認知症であるということなので、本人には同意を行う能力がない場合として、任意入院の可能性はなく、強制入院を選択せざるを得ません。

強制入院には、措置入院と医療保護入院などがあります。

措置入院とは、 精神障がいのために自傷他害のおそれがあり、 医療及び保護のために入院の必要があると判断された場合、 都道府県知事の命令により、 精神科病院に強制的に入院させることで( 精神保健福祉法29条1 項)、2名以上の指定医が診察をして、 いずれも措置入院が必要と判断することが必要です(同法29条2項)。

次に医療保護入院について述べます。

 

2 医療保護入院

医療保護入院とは、精神障害者であって、医療及び保護のために入院の必要性があるときに、 本人の同意がなくても、 家族等の同意により、精神科病院の管理者がその者を強制的に入院させることをいいます。指定医1名の診断が必要です(同法33条)。

ところで、精神保健福祉法は、改正法が平成26年4月1日から施行され、保護者制度が廃止されて、医療保護入院の同意については、保護者に代わり、「家族等」のうち、いずれかの者の同意により入院させることができることになりました。

「家族等」というのは、 精神障害のある人の配偶者、 親権者、 扶養義務者、 後見人又は保佐人です(同条2項)。

 

3 退院の請求

他方、上記改正法により、退院等の請求ができるのも、「精神科病院に入院中の者又はその家族等」になりました。そして、「家族等」は、入院時に同意した家族等に限られません(同法38条の4)。

退院の請求がなされると、精神医療審査会が審査します。その場合、審査会は、退院の請求をした者及び入院中の精神科病院の管理者の意見を聴かなければならないこととされています(同法38条の5、3項)。なお、審査会が必要と考えれば、入院時に同意をした家族等を含む関係者に審問等を行うこともできます(同条の5、4項)。

したがって、兄の退院請求により、審査会が母には医療保護の必要性がないと判断すれば、母が退院することもありえます。

 

4 家族等の間で意見が異なる場合

以上のとおり、法律上、医療保護入院の要件としての家族等の同意は、家族等のうち誰か一人の同意で足り、同意の優先順位はありません。

ですから、同居している家族は入院に賛成で、別居している家族は反対しているとか、後見人又は保佐人は賛成で、家族は反対しているとか、同意していた家族がその後意見を変えたなど、いろいろな場合が生じうるわけです。

そのため、今回の改正は、医療の現場に混乱を生じさせると指摘する意見もあります。

 

ところで、厚生労働省は、「医療保護入院における家族等の同意に関する運用について」(平成26年1月24日障精発0124第1号)において、医療保護入院後に、精神科病院の管理者が、入院に反対の家族等や、入院後に入院に反対することとなった家族等の存在を把握した場合には、その家族等に、入院医療の必要性や手続の適法性等について説明することが望まれる、と指摘しています。

 

  そこで、お尋ねのケースですが、母の今後の医療や自宅に戻る際、母のためにも、兄の理解と協力は重要になると思います。したがって、あなたから主治医に、兄が母の入院に反対していることを相談し、まずは、主治医から兄に、母が入院して医療、保護を受ける必要性があることについて、十分説明してもらってはいかがでしょうか。

以上

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